『剣遊記14』 第二章 指宿温泉、怪夜行。 (10) いやいや、現在の事態がこのような、話が横道にそれた穏便な終わり方(?)――となるはずがなかった。
要は孝治と裕志の全裸問題にあったのだ。友美がその点を、ふたり(孝治と裕志)に背中を向けたままで指摘してくれた。ついでだが、荒生田の問題は忘れた。
「ほ、本題に戻るっちゃけど、なしてふたりとも、砂風呂で裸になっとうと!? 涼子も言ったっちゃけど、ここはわたしが着とうような宿屋が用意しちょう浴衣ば着て、砂に埋まるんが正しいやり方なんばい!」
「うわっち! ほんなこつ、そのまんま砂に入るんじゃなかっちゃねぇ♋」
繰り返すが孝治にとって、やはり初耳な話であった。
「そげなこつ、おれいっちょも聞いたことなかっちゃけね♨ だいいちここにはそん浴衣っちゅうのもなかったし、説明書もなんもなかやない♨♐」
「そ、そりゃたぶん、宿屋んほうの落ち度っちゃね☢ でもこんくらいんこつ、孝治やったら知っとうっち思いよったんやけどぉ☁✍ 徹哉くんかて、ちゃんと服ば着て砂に入っとったんやろ☜」
「うわっち!」
続く友美の指摘で孝治は自分の下アゴが外れて、砂の上までコトンと落ちるような思いになった。
「た、確かにこん徹哉は、服んまんま砂に埋まっとったんやけどぉ……浴衣やのうても裸でさえなかったら、徹哉んほうが正しかったっちゅうことね?」
これに終始ポーカーフェイス😑のままでずっといる当の徹哉が、やはりポカンの感じでほざいてくれた。
「ハイ、申シ遅レタンダケド、ボクノ世界ニオイテモ、砂風呂ト言ワレル風習ガ存在シテルンダナ。ダカラボクハソノ風習ニ従ッテ、着衣ノママデ砂ニ入ッタンダナ」
「まあ……着たままっち言うたかて、ふつうの服んまんま入るっちゅうのは、また違うっち思うっちゃけどぉ……☁」
友美が苦笑混じりの顔になった。
そこへまた――だった。
「そげんでもなかばい……たまには全裸で砂風呂っちゅうのも、なかなかオツなもんばいねぇ☻」
あるモノがぶち破って大きく開いている壁の穴から、顔面血まみれの荒生田が、ヌッと姿を現わした。
ちなみにサングラスは今回も無傷。
とまあそれは置いて、孝治はまたも悲鳴を上げた。
「うわっち! 変態が生きとったあーーっ!」
「なんべんも言いよろうも☻ オレは天下御免の無敵で不死身なんばい☻☻」
血みどろである荒生田が、口の右端をニヤリとさせた。
おまけでまたついで、前歯もキラリと光った。 (C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |