『剣遊記14』 第二章 指宿温泉、怪夜行。 (7) 「デハ、ボクハソロソロ上ガルコトニスルンダナ」
「うわっち? 今入ったばっかしやなかっちゃね?」
やっと体が入るだけの穴が出来上がったときだった。徹哉が早くも、風呂上がりを言い出した。
ここまでの出血大サービス(裕志の鼻血?)をしてやっているのに、このつれない態度の繰り返し。孝治は今度は、無性に自信を喪失するような気持ちにもなってきた。
(おれってやっぱ……自分で思うちょうほど、プロポーションばっちりになっちょらんのやねぇ☃ この落ち込み感、ずっと昔にも味わったような気がするっちゃけど☢)
「デハ、ボクハ先ニ上ガラセテイタダクンダナ」
しかし孝治の切ない思いなど、それこそてんで関係なし。先ほどからと同じセリフを繰り返し、仰向けに寝ている体勢で埋まっている徹哉がガバッと、砂の中から上半身を起き上がらせた。
そこで孝治と裕志は、またも仰天した。
「うわっち!」
「て、徹哉くん! そん格好って!」
ふたりそろって驚いたのも道理。徹哉はなんと、ふだんの服装のまま(紺の背広とズボン。赤いネクタイ着用)で、砂の中に体を埋めていたのだ。当然紺の背広は砂まみれであり、徹哉が完全に立ち上がって歩くたびに、全身から砂粒がボタボタとこぼれ落ちる有様になっていた。
「徹哉っ! おまえそんまんまで砂風呂に入っとったっちゃね♋」
失礼ながらも右手人差し指を突きつける孝治に、徹哉はきょとんとした感じで答えてくれた。
「ソコハゴ安心スルンダナ。一応ボクノぼでぃニ防錆ビすぷれーヲ噴射シテルカラ、錆ビ止メ対策ハトテモ万全ナンダナ」
「意味不明で的外れんこつ言うもんやなかぁーーっ!」
孝治はハリセンで、徹哉の頭を真正面からバシッとしばいてやった。これも毎度の黄金パターンで、決して出所を追及してはいけないのだ。 (C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |