『剣遊記14』 第二章 指宿温泉、怪夜行。 (4) 「で、砂風呂っち、どげんして入るとやろっか?」
孝治は現場に着いてから、今度はポカンとした気持ちになってつぶやいた。
ここ指宿市の温泉街ではどこの宿屋でも、専用の砂風呂が用意されていた。ただしその場所は、海岸の砂浜に簡単な木造小屋が建てられ、内部はもろに砂だけとなっていた。
要するに勝手に砂に埋まってあったまれ――という経営方針か。
「まっ、そんならそれでよかっちゃけどね♡」
速攻で砂風呂に入るつもりだった孝治は、もはやためらいなど関係なし。さっそく着ている軽装鎧を脱ぎにかかった。
「じゃあ、わたしたちは隣りの女風呂に入るっちゃね☺」
『あたしもね☻』
友美はともかく、幽霊である涼子も、砂風呂をしっかりと堪能する気でいるようだ。
「ああ、もう突っ込まんけ、ゆっくり楽しんで来や☞」
砂浜には前述のとおり、各宿屋の小屋が何棟も並んでいた。そのうちの二棟が孝治たちの泊まっている宿屋の小屋であって、恒例で男女に分かれていた。ついでに言えば、西側が男湯。東側が女湯であった。当然同席している裕志が、孝治に異を唱えた。
「なして孝治が男湯におるっちゃね♋ 女湯はお隣りなんやけどぉ……☁」
孝治はとっくに、言い訳を用意していた。
「おれは中身は男なんやけ、これでよかと✌ 裕志とはもうなんべんも、いっしょに温泉やらお風呂に入っとう仲やろうも✊」
「う……うん、確かに……♋」
これでも裕志は、孝治のヌードを、けっこう拝見している身分でもあった。また孝治自身も裕志ならば人畜無害と決め込み、堂々の混浴(?)を、いつもの調子で楽しんで(?)いた。
問題は、裕志が孝治のヌードに、全然慣れてくれないことにあるのだが。
「裕志かておれのヌードば見て、ええころ加減に女性の裸に免疫持たんといけんちゃよ☻ そやけんいつも由香ちゃんとは、なかなか進展せんのやけね☢☕」
「今ん場合、由香はいっちょも関係なか……っちゅう気がするっちゃけどぉ……☁」
裕志の愚痴に等しいつぶやきなど聞かない振り。孝治は鎧も下着も、どんどんポイポイと脱ぎ捨てた。
一応砂場の上には板張りの床があって、衣類はそこで脱ぐようになっていた。もっとも脱いだ服を入れる竹かごが見当たらないので、けっきょく床に投げ捨ての格好となっているけど。 (C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |