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『剣遊記14』

第二章 指宿温泉、怪夜行。

     (3)

「徹哉っち、日明さんのことば『博士{はかせ}』なんち言うとやねぇ✍」

 

 孝治は宿屋の部屋に着いてから、徹哉にひとつの問いを訊いてみた。

 

 今晩の宿はすぐに決まり(旅のベテランである二島が探してくれた。もっともそれならば、孝治や荒生田たちも同じであるが)、孝治と友美と涼子の三人は、ようやく長い旅路から解放され、畳に腰を下ろしていた。しかも裕志となぜか、徹哉との相部屋になっていた。

 

 つまり男性二名。女性も二名(幽霊は数に入らず)。孝治はもはや、完ぺきに女性扱いとされていた。しかしそこのところの問題点については、孝治と友美はほとんど気にしていなかった。その理由のひとつとして、裕志も徹哉も見た目どおりの草食系。変人ぞろいである荒生田、日明は無論のこと、同類呼ばわりしては悪いと思うのだが、二島との相部屋は、絶対に御免被る話だった。従って、そのような事態が避けられただけでも、孝治には一切の文句がなかった。

 

 でもって孝治の問いに対する徹哉の返答であるが、これがやはり、訊かなきゃ良かったといえるシロモノ。

 

「ハイ、日明博士ハ地球物理学ニオケル、二十三世紀最大ノ頭脳ヲオ持チデアラセラレルンダナ。キット近イウチニ世界ガ博士ニヒレ伏ス日ガ訪レルダロウト、ボクハキット予測シテルンダナ」

 

「ごめんちゃ、訊いたおれが馬鹿やったけ☠☢☃」

 

 孝治は部屋の押し入れの前で直立不動している徹哉の前から、一歩も二歩も身を引いた。

 

「わかっていながら……おれの失敗っちゃねぇ☁ なんか自分自身の学習能力に疑問ば感じてきたっちゃよ

 

 さらに自虐的な気持ちでつぶやきながら、孝治は部屋の窓辺に身を乗り出した。二階の部屋からは広い太平洋が、手に取れるような感じで一望に見渡せた。孝治は何気ない気持ちに頭を切り替えて、自分の右隣りで、やはり広い太平洋を眺めている友美相手にささやいた。

 

「そげん言うたら二島さん、この宿屋が決まるなりちょっと散歩やなんち言いよったとやけど、どこ行ったか知らんね?」

 

 友美が頭を横に振った。

 

「さあ? 海岸ば歩いてくるなんち言いよったとやけど、やっぱふつうの散歩とちゃう?」

 

『あたしもそげん思うっちゃよ☻ あとばついてく気もせんけどね

 

 いつの間には左隣りにいる涼子も、いわゆる我関せずの顔。それからおまけでひと言。

 

『海岸言うたら、ここ指宿って砂風呂で有名なとこばいね♡ 孝治と友美ちゃんも入ってみんね

 

「砂風呂けぇ〜〜✍」

 

 自分でも不思議に思っているのだが、このとき孝治は、言わば前向きな気分になっていた。

 

「砂風呂っちゅうたら、砂浜が地下の温泉の熱であったまっとうとこっちゃね 話のタネに、いっちょ経験してみよっかね✌

 

「あっ、わたしも入る

 

 友美も孝治と同じ考えのようだった。ついでに孝治は、同じ部屋にいる裕志と徹哉にも訊いてみた。

 

「どげんやろっか☆ みんなで砂風呂ば入ってみんね♐」

 

「えっ? ぼくも?」

 

「ソレハイイカモシレナインダナ」

 

 さっそく目の玉を丸くした裕志よりも、なぜか徹哉のほうが、かなりに積極的となっていた。

 

「砂デ温マルダケダッタラ、ボクノぼでぃニモアマリ悪イ影響ハ起コラナインダナ。デモボク自身ハドチラカト申セバ、温マルヨリモムシロ冷ヤシタホウガ、内部ノぱーつノ保全ニハイインダケドナ」

 

「さっぱり言いよう意味がわからんちゃねぇ

 

 相も変わらず、頭を悩ませてくれる徹哉の迷セリフであった。だけども孝治はもはや、これには関わらないようにした。

 

「とにかく砂風呂行きは決定っちゃね☆」

 

「うわっ! なしてぼくば引っ張るとぉ☃」

 

 砂風呂行きを決めた孝治は、早速裕志の右手を自分の左手で引っつかみ、ほとんど強引的に、部屋から廊下へと連れ出した。そのあとから友美と涼子と、おまけで徹哉もついて来た。

 

 このとき孝治は、無意識的に次のセリフをつぶやいていた。

 

「先輩がおれたちの入浴に気ぃつかんうちに、さっさと楽しいことば片付けるっちゃよ☀」


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