『剣遊記14』 第二章 指宿温泉、怪夜行。 (2) 「うわっち! やっぱ話が早かっちゃよ♋」
孝治はまたも驚いたが、もはや今回の旅の定番。これはさて置いて、街道を南下する間、竪琴での弾き語りを続けてくれていた二島が、荒生田相手にささやいていた。
「池田湖がこの指宿市からそない遠くないことは、この私もよう知ってまんがな✌ そやさかい、それはまああしたのことにして、今夜はこの街で宿を取ることにいたしましょう⛾ 皆はん、お疲れのようですしなぁ⛽」
「う〜ん、それもそうっちゃねぇ✊」
荒生田も二島の意見具申に、異論はないようでいた。
「まあ、確かに裕志もバテとうみたいっちゃし、今夜はまず、のうならかした体力の回復ばしとこうっちゃね⛹」
「そうですっちゃねぇ……⛱」
孝治も荒生田と二島に同意した。それから孝治は、裕志に顔を向けてみた。この魔術師はいつもどおり、青い顔になって地面に尻を付けていた。つまりが二本の足で立てない状態。
「無理なかっちゃけねぇ☻」
毎度のパターンとはいえ、孝治は裕志の疲労困ぱいの理由を知っていた。旅の途中、荒生田は吟遊詩人である二島になぜか対抗意識を燃やして、裕志にギターでの弾き語りを強制させ続けたのだ。
いわゆる竪琴とギターの演奏合戦。
「ほほう、これが西洋弦楽器であるギターと言われはるもんなんやなぁ☺ これは私も、大いに勉強させてもらいますわ☻」
音楽で飯を食べている身分であれば当然ながら、二島も裕志のギターに、大きな興味を示していた。これはたぶん、初めて見たのかもしれないギターとやらに、無意識的で対抗心を抱いたのではなかろうか。しかしこの合戦は、裕志にとっては大きな有難迷惑だったかも。むしろ荒生田も自分が対抗心を燃やすのであれば自分自身で争うべきなのだが、そうしないで人(今の場合は後輩)に押し付けるところが、このサングラス😎戦士のサングラス😎戦士たるゆえんなのだろう。
「なしてぼくばっかぁ……♋」
けっきょく裕志は自分で望んだわけでもないのに、北から南まで九州を縦断する間、ずっとギターの演奏をやらされ続けていたわけ。しかも二島は竪琴をまったく休まずに弾き続けて今も元気でいるのに、裕志のほうはもはや指がしびれきって、ギター演奏が無理な有様となっていた。
これがいつもの旅であれば、荒生田はギターなどにはまったくの無関心。裕志も自分の気が向いたときだけ勝手に演奏していればよかったのだが、今回それが特別だったのだ。
いやはや災難の元というモノは、日常のどこに転がっているものやら。まったくわかったものではない。
「友美ぃ……いつもんどおりで、疲労回復魔術ばサービスしてやってや☻」
「うん☕」
孝治の頼みにコクリとうなずいて、友美が裕志の背中に、得意の魔術をかけてやった。その様子を眺めて、涼子がこれまたのひと言をつぶやいた。
『裕志くん、いつも荒生田先輩と旅しよんやけど、旅しよう間中ずっとギターの演奏ばやらされるなんち、たぶん今回が初めてやったんやろうねぇ☢ なんかあたしもいつもみたいに、『情けなかぁ〜〜☠』なんち、言うのも気の毒な気がするっちゃよ☂』
「おれもそれとおんなじ思いっちゃね☁」
涼子もふだんであれば毒舌なのだが、それさえためらうほどの、先輩による後輩の酷使ぶりと惨状。孝治はなんだか、その惨事が次は自分の番のような思いがして、全身に無意識的な震えが生じていた。
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