前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記14』

第二章 指宿温泉、怪夜行。

     (1)

「ゆおーーっし! 指宿{いぶすき}に着いたばぁーい☆」

 

 荒生田が吠えた。

 

「うわっち! 先輩、場面転換早過ぎですっちゃよ!」

 

 孝治は慌てふためき、大きな声でわめき立てた。

 

「北九州から鹿児島までの旅の行程っとか、砦突破んときの苦労話っとか、書かんといけんこつエピソード、それこそ仰山あるとでしょうが!」

 

 それでも荒生田は、シレッとしたもの。

 

「よかよか 旅の途中のグダグダ話なんち、読みようほうかて大概飽いとうもんやけね☻ それよかストーリーはバンバン進んだほうが、なにかと面倒がのうてよかっちゃよ☻☻

 

「そげなもんですけぇ〜〜♋」

 

 孝治のため息のとおり、旅の一行八人は、冒険に付き物である数々の障害をあっさりと突破。九州の南端、鹿児島県の指宿市に到着していた。

 

 現場はまさしく、九州の南端(本当の南端は東隣りである大隅{おおすみ}半島佐多岬)。ここは薩摩{さつま}半島の南部。指宿市の南に広がる海岸線で、孝治たち一行は、今回の冒険を決行するつもり。

 

「徹哉クンよぉ! 日本の南は、さすがにあったかい風が吹くもんだがやぁ☀」

 

「ソノトオリデス、日明博士」

 

 得体の知れない怪人コンビのひとりである日明は、南の海岸線に我が身を捧げるような格好。両手を大きく広げて、海風を全身で受けていた。しかし徹哉のほうは、自身のセリフとは裏腹。その海風から、なぜか体を避けるような格好をしていた。彼は海岸に近づいたときから、ビニール製の黒いレインコートを、頭からすっぽりとかぶっているのだ。

 

 別に雨が降り出したわけでもないのだが。

 

 友美がこれを不思議がって、徹哉に直接尋ねた。

 

「なして天気も良かやのに、こげな厚いレインコートば着ると?」

 

 これに徹哉が答えた。実に正直極まる態度と姿勢でもって。

 

「ハイ、潮風ガボクノぼでぃニヨロシクナイ結果ヲ起コスカラナンダナ。ボクハマダコノ新品ノ状態ヲ維持シテイタイノデ、全体ガ錆ビル事態ニナルコトダケハ御免被ルンダナ」

 

「錆びるって……まるで体が鉄で出来てるみたい?」

 

「ほんなこつ?」

 

 友美は――さらにそばで聞いていた孝治も瞳を白黒させたのだが、このあとに続けなければいけないはずの質問を、ふたりそろって言いそびれた。なぜなら日明が急に孝治と友美、それと徹哉の間にしゃしゃり出て、話を中断させたからだ。

 

「徹哉クンもまあ、おうじょうこくやっちゃなあ、だがや☻ それより問題の池田湖とやらは、どっちの方向だがやかね? ちゃっちゃと先に進みたいんだわさ☞」


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system