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『剣遊記14』

第二章 指宿温泉、怪夜行。

     (16)

 けっきょく徹哉ひとりを池田湖に置き去り。孝治たち一行は、一応のくつろぎを満喫していた。

 

 とにかく話が決まって、いの一番に宿へと引き揚げた一行である。その中でも特に荒生田は、自分の所業は棚に上げきっている感じ。宿屋の一階ロビーにある大型のソファーにドカッと鎮座して、今さらながらの疑念をほざき始めた。

 

「しっかし、あげな馬ん骨みたいな青二才ば現場に置いちょいて、ほんなこつ大丈夫なんやろっかねぇ?」

 

 これに日明が、意味のわからない高笑いで返していた。

 

「ぬわぁーっはっはっはっ☀ ぬぁーにをそんなに心配しとるんだがねぇ、荒生田戦士とやら☻ チミは徹哉クンの本当の高性能っちゅうもんを、ちぃーとも知らんもんがんねぇ、そのようなたあけたことを言いよんだがやぁ✌♪ まあ、ここはこのうわたくしと徹哉クンの二人三脚にまぁーかせてだにぃ、今夜はもう枕を高くして寝とうがええがねぇ♫♬」

 

「いっちょも眠れそうになかばい☹」

 

 端でこれらの妄言を聞いている孝治は、今になって心配でたまらなくなっていた。いくら日明博士の命令であり、また本人(徹哉)が簡単に承諾したとはいえ――である。それでも危険極まりない現場に、言わば仲間を放置してきたのだ。これではふだんならあまり湧かない罪悪感という意識が、胸いっぱいに充満するというモノだ。

 

『そげん心配やったら、あたしがちょっとばかし、様子ば見に行ってみようか?』

 

 涼子のささやきに、孝治は速攻で飛び乗った。

 

「この際やけ、涼子に頼むっちゃね なんかありよったら、すぐここに戻って報告しちゃってや

 

『うん、わかった☆』

 

 涼子は早速、空中浮遊で宿の壁をスルリと通り抜け、そのままロビーから消えていった。そのうしろ姿を眺めつつ、孝治は小声で誰にも聞かれないようにしてささやいた。一名を除いて。

 

「これで一応、徹哉んこつすぐわかるっちゃけど、どげんしたかて今夜はやっぱし徹夜ばいねぇ☹ このシャレ、自分でもつまらんち思うけ、大きい声で言わんようにするっちゃけどね☻ 解説でも先に言うとったし✍」

 

「それは間違いなさそうっちゃねぇ☻」

 

 孝治の右隣りで壁にもたれかかっている友美も、コクリとうなずいてくれた。やっぱりわかっている孝治のパートナーであった。


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