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『剣遊記14』

第二章 指宿温泉、怪夜行。

     (15)

「うわっち! うわっち! なんか嫌な予感ばっかしするっちゃねぇ☢」

 

 このようなときのパターンは、大概次のような話の展開となる。荒生田が無茶ブリをわめいて孝治を無理矢理的に脱がし、湖の底へ探索に行かせる成り行きなのだ。

 

 本人が孝治のヌードを見たいばかりに適当な理由をでっち上げ、嫌でも裸にする魂胆。まさにこの(軽い)物語の神髄ではなかろうか。

 

「けっきょく、いつものワンパターンっちゃねぇ☃ 言うとくっちゃけど、おれは決してサービスキャラやなかっちゅうとやけどねぇ☠☢」

 

 だけど今回に限っては、孝治の心配は杞憂で終わってくれた。次の二島のセリフが、話の方向性を、少しだが変えてくれたのだ。

 

「確かに怪しい雰囲気でおまんのやけど、ここにジッと集まっとったかて、モンスターはんも照れて出てきまへんのとちゃいまっか? これは私の愚案なんでおますんやけど、なんや湖に見張りでも残しはって、私らは奥に引っ込んどったほうがええと思いまんのやけどなぁ✍」

 

「なるほどねぇ〜〜

 

 珍しくもここで、荒生田が前向きな姿勢で耳を傾けていた。これは孝治にとって、まさに幸いな話の流れとなった。

 

(二島さん、グッジョブっちゃよ✌✌)

 

 内心でほっと胸を撫で下ろす孝治の前で、荒生田が下アゴに右手を当てていた。これは一応、先輩なりの思案中を示す行動と癖だった。ただし出てくる結論は、いつもしょーもない提案ばかりなのだが。

 

「なんも、オレたちがひと晩中ここで見とったかて、そりゃ大いに無駄っちゅうもんかもしれんちゃねぇ ゆおーーっし! ここはひとつ、あんたの考えに乗ってやろうかね♣♠

 

「で……見張りって、誰か残るとですか♋」

 

 一応安心した孝治とは反対で、裕志は今もって青い顔のままになっていた。現在深夜のはずなのに、それでもはっきりと顔色がわかるほどに。

 

しかしその心境も当然であろう。なぜならこのとき、荒生田のサングラスが今夜の月の光を受けて、不気味にキラリと反射をしたからだ。

 

 この光景を見て、孝治は再び心臓が、ドキリと大きく鼓動した。

 

「うわっち! 先輩やっぱし、ちゃーらんこつ考えようっちゃねぇ☠」

 

 続けて孝治は考えた。

 

(そげん言うたら正男んやつ、湖のモンスターが月に吠えるなんち言いよったっちゃねぇ♋ 先輩かてきっとおんなじっちゃね♋♋)

 

 もちろん裕志も、孝治と同じように戦慄していた。

 

「せ、先輩……ぼくたちにここで番ばしろって考えよんばい♋」

 

 ところが最大級である危機の寸前(これも永遠のワンパターンだが)、救いの神がまたもや裕志と孝治の前に降臨した。

 

「では徹哉クン、チミがひと晩、ここで見張っておりゃーええがね☻✌」

 

「ハイ、博士、ナンダナ」

 

 今の日明のひと言でなぜか徹哉が寝ずの番となり、池田湖の湖畔に徹夜(寒いシャレではない)で立ち尽くすという、話の成り行きになったわけ。

 

 徹哉自身はこのひどい扱われ方に、なんの疑問も異論もないようだった。それよりも孝治と裕志にとっては、とにかくもっけの幸い。

 

「良かったっちゃねぇ とりあえず一難は去ったみたいやけ☻

 

「うん♥」

 

 ふたり(孝治と裕志)とも、徹哉には一切の同情をしなかった。

 

 それから一行は時間をかけていったん宿まで戻り、あとは『果報は寝て待て』を決め込んだ。

 

 けっきょく時間の、大きな無駄浪費であった。


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