『剣遊記14』 第二章 指宿温泉、怪夜行。 (13) が、甘かった。
「ゆおーーっし! 今から早速池田湖に行くばぁーーい!」
「うわっち! せ、先輩っ!」
孝治はたまげて、畳の上から天井まで、正座のままにて飛び上がった。
理由は簡単過ぎ。砂風呂にほったらかしにしていたはずの荒生田が、そのままの格好で孝治たちの部屋に現われたからだ。
それもまさに、先ほどの徹哉の繰り返し。『モ○ゴ○』の○ジ○のごとく、全身から砂ぼこりをボトボトと落としながらでの様相で。
「せ、先輩……今ん話、いつから聞いちょったとですか?♋」
突然の出現はこれもいつものパターンなので、その付近へのツッコミは、もうやめにしておいた。それよりも孝治は、荒生田がまた要らぬ冒険心を沸き立たせたんじゃなかっちゃろうか――と、その点だけが唯一で最大の心配事となっていた。
これに荒生田が、砂まみれの顔で答えてくれた。
「二島さんの話とやらが始まった時点でばい☆ オレの興味ば引き付けるんに、充分過ぎる内容やったけんねぇ✌」
「うわっちぃ〜〜☠☢」
孝治は最悪の展開を予感した。今さら申すまでもないが、荒生田はいったん自分が言い出したら、超大型台風が襲来しようが南海トラフ巨大地震が発生しようが、絶対に初めの(迷惑極まりない)信念を曲げない男なのだ。
「で、二島さん、そん心中カップルっち、もしかしてイケメンと美女の組み合わせやろっかねぇ?」
孝治などもはや眼中外。荒生田が二島に尋ねた問いは、どこか大いに的が外れていた。もっともこれにも、誰ひとりとして(孝治も)突っ込まなかったけど。
「さあ、そこのところはどないでしょうなぁ☺ 私にその話を教えてくれはったお方も、おふたりの人相まではおっしゃってはくれはりまへんでしたので☻」
などと、これまたすなおな、二島の返答。続けて孝治も、そっとつぶやいた。
「そりゃ、過去の悲恋話なんちいろいろあるっちゃけど、やけんってそん男女が美男美女かっち、そげなんまで伝えられるはずなかっちゃけねぇ☻✄」
それはまあそうとして、荒生田のわがままのほうは、今や暴走の域に達していた。
「ゆおーーっし! とにかく今から池田湖に向かって出発っちゃあ! 我に続く者はあとに続けぇ! 臆病者は残ってええっちゃぞぉ!」
「じゃあ、ぼくは残りますっちゃ⚠」
「おれも⛑」
「わたしも⛔」
裕志と孝治と友美の当然である言い分を、荒生田は完ぺきに無視をした。
「ゆおーーっし! みんな勇敢なる戦士ばっかしで、オレはほんなこつうれしかっちゃねぇ✌」
「やきー、残るっち言いよりますっちゃよぉ☠♨ うわっち!」
「な、なしてぼくまでぇ!」
「よかよかっ♡ 君らの本心はよーわかっちょうと☀」
けっきょく嫌がる孝治の右手と裕志の左手を強引に握って引っ張り、荒生田が宿の部屋から廊下に出た。
この光景を見て、二島が苦笑していた。
「やれやれ、こないなりはりましたら言い出しっぺの法則⛽ この私もお付き合いしますかいな☻」
「そうですね☻ わたしもお付き合いしますっちゃよ☺」
『あたしは興味本位丸出しにするっちゃけどね☺✌』
こちらはこちらで、あきらめ半分境地の友美であったが、涼子のほうは当然に、やる気満々。二島には自分の存在が認識されていないだろう現実など、重々承知のうえだろう。
このついで、友美はいつの間にか存在感が希薄になっている徹哉にも、一応顔を向けてみた。
驚くかもしれないが、徹哉は最初からずーーっと同じ部屋にいたのだ。
「徹哉くんはどげんするね? 行ったってちゃーらんことになるっち思うっちゃけどぉ✋☻」
これに徹哉は、やはりのポーカーフェイス😑で答えてくれた。
「ヤア、ボクトイタシマシテモ、コノ不思議ナ現象ニハ大イニ関心ヲ創成サセテイタダイテルンダナ。コレハサッソク日明博士ニモ伝エナイトイケナインダナ」
「あの人も呼ぶとぉ? なんか話がますますややこしゅうなりそうっちゃねぇ☻ そう言うたら今まで日明さん、なんしよったんやろっか?」
疑問はさて置き、それでも友美自身もだんだんと、なんだか胸がワクワクと楽しそうな気持ち及び予感になってきた。
ついでに今から、オチも読めるような気にもなったりして。 (C)2016 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |