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『剣遊記14』

第二章 指宿温泉、怪夜行。

     (11)

 孝治たちの砂風呂入浴体験は、いつもどおり(?)の騒動にて終了。とにもかくにも砂風呂を楽しんだ(?)孝治たち一行は、癒しどころかどっと疲れ切った感じで部屋へと戻った。すると中では、吟遊詩人の二島が、いつの間にか帰って部屋で待ってくれていた。

 

 宿泊している部屋は別々のはずだが、その点は二島はもちろんだろうけど、孝治もそれほど気にはしなかった。元々旅の道連れ仲間なのだから。

 

「やあ、よろしゅうやっておられたようでんなぁ☆ 皆の衆の皆はん

 

「これがよろしゅうやっちょう顔に見えるとけ?」

 

 こっぴどい目に遭ったばかりである孝治のご機嫌は、このとき自分でもわかり過ぎるほどに最低だった。

 

 それでも二島は、やはり気に留める風もなし。愛用品である竪琴を、丁寧に布で磨いていた。このような不機嫌のついで、孝治は二島に毒づいてみた。

 

「あんた、ここでも伝承歌ば歌とうて、けっこう日銭ば稼いだんとちゃうね?」

 

 けれどこの程度である孝治のヘタクソな嫌味など、二島にはまったく通用しなかった。これはやはり、年季というモノが格段に違うのだろう。

 

「はははっ☆ そないな風に見えますかいな まあ確かに、道端でちょっとは歌わさせてもらいましたけどなぁ 稼ぎなんぞみみっちいもんでしたわ☻ はははっ☆

 

「あ、そうね☹」

 

 孝治は軽く受け流した。だけど話は、これで終わらなかった。

 

「まあ、道端で歌を披露するついでに、私のこの長い小耳に、ちょっとばかし情報らしいモンも入ったもんやさかいに、聞きまっか?」

 

「じょうほう?」

 

 二島の思わせぶりな言葉に、孝治は当然の好奇心と興味で顔を向けた。

 

「それってなんね?」

 

 孝治は好奇心から半分真面目な気持ちに自分を切り替えて、二島の前でペタリと正座をした。このときふと両側を見回せば、右に友美と左に裕志の形で、同じ正座を行なっていた。まあ涼子のみは、二島の眼中には入っていないだろう。その幽霊は孝治の真後ろで、聞き耳を立てている気配を感じさせていた。

 

「で、情報っち?」

 

 これら四人を代表するような気持ちにもなって、孝治は改めて二島に尋ね直した。

 

「それはでんなぁ♪」

 

 二島はここで、なぜか竪琴を鳴らしながらで、その話とやらを始めてくれた。誰もBGMなど頼んでもいないのだが、たぶん音楽で自分の気分を高めているのだろう。またこれは、吟遊詩人の習性(音楽があったほうがしゃべりやすい)でもあるらしいので、孝治を始め一同四人、その点でのツッコミは、もうやめにした。

 

「職業柄やけんねぇ〜〜☻☂☁」

 

 孝治の苦笑混じりであるつぶやきのあとだった。二島がやっと本題を始めてくれた。

 

「私は初めはひとりで、指宿の海岸線を散歩しよったんですわ♫♬」

 

「それはわかっちょうと☻☃」

 

 ボケを期待しない、孝治の軽いツッコミ。深いツッコミは自粛中なので。

 

「私は散歩がてら、いつもの弾き語りも試しにやってみたんですよ♩ そしたらねぇ♪」


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