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『剣遊記15』

第二章 開運! 美奈子の大当たり☆

     (6)

 その後の展開は迅速だった。また富クジにも、嘘偽りはまったく無かった(もし嘘だったら、美奈子大暴れの展開、間違いなし)。

 

「これが豪華クルーズ帆船のチケットと操船許可証じゃけん、優雅な船旅を目一杯楽しんでくださいよ⛴✊

 

 美奈子たちは富クジの運営本部が所在する広島市まで、いったん戻るコースとなった。かなりに面倒な経緯であるが、本部でないと当選の認証を渡せないと言う、法被男の(面倒臭い)言葉に従って――なのである。

 

 なお、到着してわかった話であるが、運営の主催者は、広島市在住の貴族の倅{せがれ}。どのような商売で儲けているかは知らないが、いかにも成金で金の使い道に困っている――と言いたいような風情がありありのお坊ちゃまであった。

 

 実に派手そうなキラキラ衣装も、実態は全然似合っていない感じであるし。

 

 だけれどそのような人物の素性など、今の美奈子には、どうでもよかった。それよりも問題は、受け取った一等賞の内容について――なのであるから。

 

「豪華クルーズ帆船での太平洋一周航海への招待……ずいぶんと豪勢な振る舞いでおますんやなぁ♋ 実はうち、今でもちょっと信じられへん思いなんどすけどぉ……☁」

 

 確かに貴族の気まぐれな道楽にしては、あまりにも羽目を外し過ぎ――と言えようか。この点だけは日頃能天気な美奈子も、なんだか腑に落ちない気持ちでいた。しかしその真意を探る行為も、天才魔術師美奈子は面倒臭がる性分なのだ。

 

「まあ、ええでっしゃろ☻ これは遠慮のう、頂いておきまっせ

 

 美奈子は受け取った帆船のチケットを、黒衣の左懐{ふところ}に仕舞い込んだ。このあと始まった貴族の倅のお祝いの言葉――いわゆる御託など、聞く振りすら見せないままで。

 

「ほな、行きましょうえ✈」

 

「はいな、師匠

 

「はいさんですうぅぅぅ♡♡」

 

 運営の主催である貴族の邸宅から、美奈子たち一行は、うしろを振り向きもせずに退出した。このように威風堂々している美奈子のうしろでは、秋恵だけが、ひとりでこっそりとつぶやいていた。

 

「この富クジ当てたんはあたしやのに、なんだかいつん間にか、美奈子先生のモンになっとうばいねぇ まあ、ええわ☻」


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