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『剣遊記15』

第二章 開運! 美奈子の大当たり☆

     (5)

「なんや、けったいなことになっておまんなぁ☻ もうしんきくさいよってに、千夏、ふたりの紙を見てやってしもうてや☜」

 

「はいはぁ〜〜いですうぅぅぅ☺☺☺

 

 一方で、こちらも業を煮やしたらしい。端でふたり(秋恵と千秋)のけったいな様子を見ていた美奈子が、右手人差し指を前に出して、千夏に代行を言いつけた。千夏は早速で、トコトコと前に歩み出た。それから姉の千秋が右手に握っている富クジを、やはりパッと右手で取り上げた。

 

 姉よりも速い右手の早業で。姉妹そろって、本当に遠慮を知らない性格である。

 

「えっとですねぇ……✐」

 

 千夏も姉と同じようにして、当選番号と持っている富クジの番号を見比べた。

 

「えっとぉ……上さんからぁ、いちぃ……にぃ……さぁん……よぉん……ごぉ……ろくぅ……ななぁ……はちぃ……きゅうう……じゅうう……ってぇ、数字さん、みんなおんなじになってますですうぅぅぅ☀☆ 千秋ちゃんが言ってくれてたのとぉ、おんなじさんですうぅぅぅ✌✌」

 

「………☁」

 

 千夏の言葉を耳に入れ、今度は美奈子も、口ポッカリとなった。

 

 いや、美奈子たち一行だけではなかった。街道の所々で地面に尻を付け、熱心に富クジをこすっていた一般市民の方々全員、今やそろって目が点の有様となっていた。

 

 しかもその状況は、富クジを売っている当の本人――法被男までが同様だったのだ。

 

「あ、あのぉ……☁」

 

 このような異常事態の中だった。なぜか秋恵が一番で、なんとか我を取り戻していた(千夏は例外)。その秋恵がおどおどした感じを丸出しにして、法被男に尋ねた。

 

「……な、なんか、あ、当たったみたいばってぇ〜〜ん、なんかもらえるとでしょうか?」

 

「あ、ああ……☁」

 

 法被男も、なんとか元に戻ったようである。ギクシャクながらも右手を上げ、カウンターの下に置いていたらしい当たり鐘(ハンドベル)を左手で取り出し、それを振ってカランカランと、けっこう大きな音を鳴らした。

 

「……おっといけねぇ! お、お、お、大当たりだぜぇ! 大当たりが出たってばよぉーーっ!」

 

「ええーーっ! うっそぉーーっ!」

 

 秋恵自身が信じられない事態も、これはこれでまあ当然。次の展開として、彼女はこの場にて卒倒。背中からバタンと、地面に仰向けで倒れる成り行きとなった。

 

こうなると、あとの話を引き継ぐ者は、師匠格の美奈子を除いて、他になし。黒衣の魔術師は早速で、法被男の前にしゃしゃり出た。

 

「お、大当たりって! こ、これはなにかの間違い……ってなわけではおまへんやろうなぁ

 

「ま、間違い……ねえぜ……と思うぜ……☁」

 

 美奈子のド迫力にタジタジしながらも、法被男は舌を噛み噛みしつつ答えてくれた。

 

「わ、わたしはウソは申しません この富クジは間違いなく、完ぺき当選、モノホンの大当たりの富クジなんだからよぉ……

 

「それでぇ、当たったらぁ賞品はなんかくれるんですかぁ?」

 

 師匠に続いて千夏までもが、タジタジ気味な法被男に、積極的姿勢で突っ込んできた。姉の千秋と当てた本人である秋恵(なんとかして立ち上がった。それなりの回復力ではある)は、今や街道の脇の地面に尻を付け、両者ともに背中合わせで腑抜けの状態だというのに。

 

 このふたりにやや近い心境なのか、法被男の言動のほうも、だんだんとヤケクソの体となっていた。

 

「こ、これは間違いなく一等賞の当選番号よ! 賞品は豪華太平洋一周クルージングの船の旅! 参ったか、この野郎っ!」

 

 しかしこの事態(一等賞が出ちゃった✄)により、店の周りに集まっていた他の挑戦者たちが口々に文句を垂れながら、続々とこの場から立ち去り始めていた。

 

「なんでぇ、なんでぇ、一位が出ちまったら、もうあとの楽しみが無えじゃねえかよぉ☠」

 

「あ〜〜あ、つまんねぇ、帰ろうぜ☂」

 

 てな具合で。


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