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『剣遊記15』

第二章 開運! 美奈子の大当たり☆

     (3)

 人だかりの中心には三尺ほどの幅がある、なにやら買台らしい車輪付きのカウンターが置かれていた。

 

 現在は晴天なので特に問題はないが、これで雨でも降りだせば、大いに慌てて片付けをしないといけないような感じであろうか。美奈子はそんな人だかりの中へと強引に割り込み、そのカウンターの上を覗いてみた。

 

 なぜか誰も文句は言わなかった(美奈子が美人だからだろうか?)。それはとにかく台の上には、白い用紙がズラリと並べられていた。美奈子にはそのハガキくらいの大きさである紙が、なんの変哲もない、ただの紙きれとしか思えなかった。

 

「なんですやろうな、これは?」

 

「千秋にもわからへんなぁ♋」

 

「あたしもですぅ?」

 

 続いて割り込んだ千秋と秋恵も、そろって瞳を丸くしていた。そこへカウンターに陣取っている若そうな兄ちゃんが、なぜか親切に教えてくれた。

 

 タオルをねじり鉢巻き型で頭に巻き、服装はお祭りで着るような、青い色をした法被{はっぴ}の格好だった。

 

「おう、なんでぇ、なんでぇ☻ お嬢さん方、あんたら富クジも知らねえってえのかい?」

 

 口調も完全に、チャキチャキの江戸っ子みたいである。

 

「はい☀ わっかりましぇんですうぅぅぅ☆

 

 千夏が実に正直な態度で答えた。次の瞬間法被男の顔に、なんでぇこのお嬢ちゃん? オレをからかってんのか?――とでも言いたそうな色が浮かんだ。それからコホンと、咳払いをひとつ。一応これも親切のつもりか、丁寧な解説を始めてくれた。

 

「いやあ、なんのなんの、方法は簡単でえ✌ このズラッと並んだ富クジをお買いになって、隠れてる数字を手でこすって出すだろ☆ そしてこの貼り紙に書いてある数字とピタリ合ってりゃ、豪華な賞品がもらえるってわけなんでぇ

 

「あれでっか?」

 

 美奈子が法被男の言うところである、カウンターのうしろにそびえる大木に瞳を向けた。確かにそこには、なにやら何通りもの数字(十ケタ)が書かれている、大きな紙が貼られていた。

 

 男はさらに解説を続けた。

 

「そう、そのとおり✌ だからよう、ここにおられる皆さん方も、熱心に富クジに挑戦してくれてるってことなんだよ なんと言っても、この数字と自分がお買いになった富クジの番号がピタリとくりゃあ、それが大当たりって話なんだからよぉ♪✌ 皆さん、そりゃもう熱心になるってもんよぉ☆★

 

「ふぅ〜ん、けっこうなんかおもろそうやなぁ☻」

 

 千秋も双子の妹と師匠に続き、興味しんしんに顔を出していた。

 

「師匠、ダメモトで一枚、クジやってみいへんか? もしまぐれでも、当たったら大儲けやで☆」

 

「そうでんなぁ

 

 美奈子も実はそうなのだが、千夏と秋恵のほうが、より積極的だった。

 

「はぁーーいっ♡ 千夏ちゃんにも一枚くださいですうぅぅぅ♐」

 

「あっ! あたしもぉ!」

 

 けっきょくメンバー全員、法被男の口車に乗せられた格好。美奈子たち一行はみんなでひとり一枚ずつ、半分冗談と暇つぶしと――さらに『もしかしたら✌』の気持ちで、富クジとやらにチャレンジした。


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