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『剣遊記15』

第二章 開運! 美奈子の大当たり☆

     (18)

「やおなかぁ〜〜っ♋ ほんなこつ船が勝手に動きよんやけねぇ

 

 孝治は心底からたまげたが、これ以上のジタバタも、もうする気にはなれなかった。

 

「ま、まあ……とにかくよろしゅう頼むっちゃね クルージング帆船くん、君だけが広い海ん上で頼りになる存在なんやけね

 

 孝治は航海の安全を祈る気持ちで、水晶球に改めて声をかけ直した。ツルツルとした水晶球の表面を、軽く右手でポンポンと叩きながらで。その返事は、これまたすぐに戻ってきた。

 

「イナゲナコト言ワンデモ、ヨウワカッタケェ。コレカラ先、コノワシニ全面的ニ任センカイノォ。ソレトワシノ名ハ、創造主ガ言ウニハ『ラブラドール・レトリーバー号』ッチ言ウラシイケンノォ」

 

「らぶら……なんとかけぇ、長ごうて覚えにくい名前っちゃねぇ☠」

 

 水晶球の、別に誰も尋ねていない自己紹介に、孝治は眉間にシワを寄せるような気分になった。それとは対照的に、横で聞いていた友美が、おもしろそうに推理を巡らせていた。

 

「たぶんそれっち、その創造主さんが大の犬好きやったからやない? それって有名な犬種の名前やけ✐✍✎」

 

「それやったら他にも、『チワワ』っとか『ドーベルマン』っとかあってもええっちゃね✋☺ 基本的にどげんでもよかっちゃけどね☻

 

 孝治以外、船の名前の由来自体には、それ以上誰も突っ込まなかった。だがやはり、例外的にひとりだけ喜んでいる者がいた。

 

「はぁーーい♡ らぶらどーる・れとりーばーちゃん、よろしくお願いいたしますですうぅぅぅ♡☀ でもぉ、ちょっとぉ長いのでぇ、『らぶちゃん』でもいいですかぁ?」

 

 もちろん千夏である。彼女は意外にも、帆船の長い名称を、一発で覚えていた。だけどやっぱり、この名前は長くて不便である。けっきょくこのあと、帆船の名をみんな、本当に『らぶちゃん』と呼ぶようになっていった。

 

「ナンジャア、コノ無駄ニ明ルイ小童{コワッパ}ハァ……マア、ワシャア、ソレデモイイデェ」

 

 魔術による創造物のくせして、妙に人間めいた動揺ぶり(千夏に気合い負けしたようだ)を示す水晶球であった。それでも一応、愛称の使用は承諾してくれた。

 

「らぶちゃんっち、『ちゃん』付けの意味ば、理解しとんやろっかねぇ?」

 

 孝治にはそこだけが、大きな疑問として残っていた。


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