『剣遊記15』 第二章 開運! 美奈子の大当たり☆ (16) 帆船の中枢を司{つかさど}るであろうブリッジにも、やはり人影はひとつも見当たらなかった。これではまるで幽霊船のようで、孝治は正直、気味の悪い思いになりつつあった。
「なんか……魔術が最新鋭過ぎて、逆に身震いば感じてくるっちゃねぇ♋」
「なにあほらしいこと言ってまんのや☻」
孝治とは真反対で、美奈子は全然平気なご様子。ブリッジにしっかりと、それらしく設置されている船の操舵輪{そうだりん}を、興味深げに隅から隅まで念入りに覗き回っていた。
「このまん丸い操舵輪とやらも、やはり魔術で動かしてまんのやなぁ☺ ほんま、けなりい(京都弁で『うらやましい』)ほどの魔術の腕前でっせ☻」
「ほんなこつ、わたしもビックリっちゃねぇ♋」
繰り返すが同業の魔術師である友美も、当然ながら美奈子と同意見をしていた。そのふたりの背後から、今度は千夏が可愛らしい声をかけてきた。
「あっれぇ〜〜? こんなとこさんにぃ、まぁるいガラスの玉さんが置いてますですよぉ?」
「うわっち、ほんなこつ☞」
孝治もその存在に、今になって気がついた。さらにその物体の本質についても。
「これってガラスやのうて水晶ばい✑」
孝治とて、けっこう長くなっている冒険戦士生活において、これと同じ種類であるお宝に、何度かお目にかかった経験がある。そのためブリッジの真ん中に置かれている円卓型テーブル上の物体――それがなんなのか、すぐにピン💡ときたのである。
「美奈子さん、これってやっぱ、魔術用の水晶球やろっかねぇ? 魔術で動く船ん中やけ、こげなんがあっても、いっちょもおかしゅうなかっち思うっちゃけどねぇ✒」
「おーきに☺ たぶん、そんとおりでおますんやろうなぁ✍」
美奈子も孝治の意見に同意しながらで、ブリッジ中央の水晶球の所まで、興味しんしんの顔を隠しもせずに寄ってきた。その水晶球は転がり防止のためだろうか、中に綿が詰まっているに違いない、緑色をした輪っか型のクッションに載せられていた。
「ほんま、かいらしい水晶球でんなぁ♪ 恐らくはこの船の操船と、なんや関係がおますんやろうなぁ☞」
その美奈子の推測に、当の水晶球が、なんと答えてくれた。
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