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『剣遊記15』

第二章 開運! 美奈子の大当たり☆

     (15)

 甲板には初めからの拝見どおり、人っ子ひとりいなかった。

 

「このお船は完全に、魔術でコントロールされてますんやなぁ♋」

 

 孝治たちに遅れて甲板まで上がってきた美奈子が、さすがに本職の魔術師の興味丸出し。珍しくも大きく感心していた。当然同業者である友美も、興味は同様。孝治のそばから離れないようにしつつ、甲板および船上のあちらこちらを、キョロキョロと眺め回していた。

 

「どこの魔術師が創ったかは知らんとやけど、ほんなこつ高度な魔術の産物ちゃねぇ☀ わたし、こげなん初めて見たっちゃよ♋」

 

 また、このころになってようやく、千秋がトラの手綱を牽いて上がってきた。これには秋恵が、ロバのお尻を両手で押して協力していた。孝治は思わずつぶやいた。

 

「ようトラから後ろ足で蹴られんもんばいねぇ♋

 

 しかし千秋は孝治に関係なくはしゃいでばかり。

 

「うひゃ〜〜っ☀ ほんま、えろう広い甲板やなぁ♋ これやったらトラも、自由に船ん中で放し飼いができるっちゅうもんやで✌」

 

 秋恵がこっそりと、孝治に耳打ちしてくれた。

 

「あたしがうしろにおったかて、いじくそばたくらんトラちゃんやったら、安心していっしょに旅ばできるったいねぇ

 

「なるほどやねぇ♠♣」

 

 孝治はなんとなくで納得した。東京での道中で、秋恵とトラはすっかり仲良くなっているらしいのだ(だから、うしろにいてもロバから蹴られないのか)。そんな孝治の思いのとおり、秋恵もニコニコ顔で、トラの頭を右手で撫でていた。

 

 前述しているが、トラはふつうのロバとユニコーンの合いの子なので、その眉間には小さなネジ巻き型の角が生えている。でもってユニコーンの大特徴として、処女以外の人間が体に触れたら角がポロリと落ちるという、大ダメージをトラに与えてしまうわけ。

 

 しかし、美奈子や友美たちは元から問題なしとして(と言うことは、美奈子は二十歳になっている今でも処女なわけ?)、元男である孝治も今や完全なる処女(?)と認定(?)されているので、その付近の問題は、まったく発生しないのだ。

 

 孝治としては、かなりに複雑極まる心境なのだが。

 

 それからトラよりもあとに乗船した者が、なにも手伝わずにトコトコと上がってきた千夏ちゃん。

 

「うっわぁーーい☀ お船の上さん、運動場みたいに広いですうぅぅぅ☆ 千夏ちゃん、毎日駆けっこさんやりたいですうぅぅぅ

 

「千夏ちゃんやったらいっちょも船に酔わんで、それこそ毎日走り回るやろうねぇ☻」

 

 千夏の相変わらずな天真爛漫ぶりを見て、孝治もなんだか、苦笑いの気持ちになってきた。ここで美奈子が、前方に見える船橋――ブリッジに足を向けた。

 

「うちらの他に人様がおらへんことはようわかりましたえ✐ それではこの船の操船がどないなってまんのか、よう見せてもらいましょうどすえ♐」

 

「そうっちゃね☞」

 

 孝治もこれに異論はなかった。


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