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『剣遊記15』

第二章 開運! 美奈子の大当たり☆

     (13)

 でもって早速で、数日後の出航の日。

 

「参りはりましたどすえ☛☞」

 

 待ちに待った慰安旅行(?)への出発である。

 

 小倉港の岸壁に、ズラリと七人。孝治、友美、涼子、美奈子、千秋、千夏、秋恵の顔が並んでいた。なお、涼子の存在を知っている者は孝治と友美のふたりだけなので、他のメンバーたちは総数を六人だと思っていることだろう。ついでに言えば、この七人に加えてもう一頭。美奈子たちの荷物運搬担当である角付きロバ――トラも、ちゃっかりと今回の航海に参加の身分となっていた。ペットの同伴は禁止されているわけでもなし。また動物であれば料金も無料と、勝手に解釈をして。ただしトラになんの役回りがあるのか、孝治にはまったくわからないのだが。

 

「まあ、仲間外れは可哀想……っちゅうことやろうねぇ

 

 孝治は前向きに理由を推察した。

 

 それはまあ置いて、遥か水平線の彼方――ではなく、東側の関門海峡の方向から、一隻のけっこう大きな白い帆を張った船が、こちらの岸壁に近づきつつあった。

 

「うわっちぃ〜〜、でっかかぁ〜〜♋」

 

 孝治も改めて、瞳を大きく開くような気持ちとなった。岸壁に接近してくる大型の帆船は三本のマストに白い巨大な帆を張った、まさに世界でも十本の指に入るんじゃないかと思えるほどの、豪華さと雄大さを孝治に感じさせてくれた。

 

『凄かぁ〜〜☆ あたしかてけっこういろんな船ば見たっちゃけど、こげな大きな船ば見るなんち、死ぬ前も死んでからも初めてばいねぇ♋♋』

 

 幽霊の涼子が、一番興奮気味ではしゃいでいたりもする。しかもその興奮ぶりは、友美も同じでいた。

 

「いったい何人乗りなんやろっか? それなんに、ここにおるんがわたしたちや美奈子さんたちば全員で七人……やのうて、六人とロバさんだけやなんて、人数少な過ぎっちゃよ♋♋」

 

 とっさに涼子の存在を隠す冷静さを兼ね備えている心構えは、さすがである。だが同時に、疑問も大きく感じた様子。

 

「確かに人数、少な過ぎっちゃねぇ?」

 

 疑問は孝治も同様だった。この一方で美奈子たちのほうは、ふたり(孝治と友美)の疑問など、まるでどこ吹く風のようでいた。とにかく弟子の三人(千秋、千夏、秋恵)が喜びまくり。

 

「こりゃほんま贅沢っちゅうもんやでぇ☆☆ ほんま生きとって良かったっちゅうもんやなぁ☀☀」

 

「わくわくぅ♡♡ 千夏ちゃんもぉ大喜びさんですうぅぅぅ♡☀♡☺☺

 

「あってまぁ! あげん大きか船っち、ひっちゃかめっちゃかビックリばぁーーい♋

 

 三人目の秋恵の言葉どおり、大型帆船の全長(舳先から船尾まで)は、目測でも優に七十から八十メートルはありそうだ。そんな大騒ぎの中で、美奈子のポツリとしたささやきを、孝治は耳に入れていた。

 

「あの広島の貴族はん、お約束はきちんとお守りするようでんなぁ☻ もしかしてあんなり、逃げてしまうかもしれへん、なんて思うておったんどすがねぇ

 

「へぇ〜〜、広島の貴族っちゅうのがスポンサーなんやねぇ☻」

 

 孝治もその辺の事情に多少の興味を感じたが、すぐにその思いは打ち消された。

 

「うわぁーーいっ! 千夏ちゃん、早くあのお船さんに乗りたいしたいですうぅぅぅ☀☀☀」

 

「こげんやったら、今スポンサーのことば訊いても駄目みたいっちゃね☻

 

 美奈子のどうやら杞憂で済んだらしい心配ごとも、超はしゃぎようである千夏の前では、まったく霞んでみえる感じが、今の孝治にはしていた。


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