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『剣遊記\』

第四章 怒涛の海底探査行。

     (9)

「こん人が、おれたちば鬼ヶ島まで連れてってくれるっちゅうとばい♡ 御歳六十歳やて✌」

 

 まさにおのれの手柄と言う感じでもって、正男が紹介をした老人は、どうやら地元の漁師のようだった。

 

 身なりは海の潮で薄汚れているが、正男が言うところの年齢よりは、ずっと若々しそうな体格の持ち主。ただし身長は、孝治よりも低めでいた。

 

「まあ、なんにしろやな、よろしく頼むばい☺」

 

 一同を代表して、帆柱が老人の漁夫に頭を下げた。もちろん少々下げたところで、老漁夫よりも目線がずっと上となっている状態は、もはや仕方のない話か。

 

「雇い賃は今は用意できんとやが、あとで必ず払うったい☝ それからあんたは、危険な事態になる前に帰るようにしちゃってや☚」

 

 帆柱が老漁夫に話すとおり、孝治たち一行は海賊を退治したあと、彼らの船を接収。それから高松かどこかの港に戻る計画でいた。だから海賊の島へは船を貸してくれる者の安全を考え、行きの物だけがあれば良かった。ところが老漁夫は頭を横に振り、帆柱の申し出を断った。

 

「なん言いよん! わしも海賊どもの狼藉三昧には、いかさまおがっしゃげる(香川弁で『物凄く殴る』)ごとあるんじゃい! やきんここでわがの都合ばっかり言わんと、わしが最後まで協力せんやったら、どっちゃこっちゃならんわい!」

 

 しかし、意外な迫力で息巻く老漁夫の声を聞いた孝治は、このとき一瞬、記憶の奥底に触れるなにかを感じた。

 

(あれ? こん人ん声……香川弁はともかくとしてぇ……いつかどっかで聞いたことある……ような?)

 

 だけどもともと、物覚えの悪さは、自分自身でも自覚済み。

 

(……んなこと、あるわけなかっちゃよねぇ〜〜✊)

 

 それからすぐに面倒臭くなり、考える努力をあっさりと放棄した。

 

「そこまで言うてくれるとやったら……わかりましたばい✋ あんたの船に乗せていただきたい⛴ 帰りの航路もお願いしますっちゃけ✈」

 

 ここでとりあえずの感じ。帆柱が老漁夫の心意気を尊重。改めて同行を依頼した。このあとすぐに、全員で老漁夫の持ち船に向かう展開となった。


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