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『剣遊記\』

第四章 怒涛の海底探査行。

     (7)

 このような足踏み状態の中だった。孝治も友美、涼子といっしょに、岸壁で無駄な時間を潰していた。

 

 孝治たち三人は帆柱の指示で(何度もしつこいけど、帆柱も当然涼子を知らない)、高松港の海上衛兵隊へ、船の貸し出しを求めに一度出向いていた。だがなぜか、けんもほろろに門前払いを喰らったのだ。

 

「変ちゃねぇ〜〜? 店長は香川の衛兵隊からも海賊退治依頼が来とうっち言いよったっちゃに、いっちょも話が通じんちゃけ⚠」

 

 先ほどから『ぼやき』を繰り返す孝治の脳裏には、高松市衛兵隊長の、きつい官僚的受け答えが焼き付いていた。

 

『あんた、なによん? おどれいきなり出てきてなんしょんな! ほんまくらっしゃげるぞ!』

 

 偉そうに鼻の下にカイゼル髭を伸ばしたその御仁(孝治の地元にも、同じようなのがいる)は、これまたドエラい剣幕で、孝治と友美を怒鳴りつけてくれたものだった。また当然ながら、船舶の貸与も邪剣にお断りされた。

 

「これやけん、あたしっち勘違い役人が好かんとばい!」

 

 友美もそのときの乱暴な言われ方を、今でも腹立たしく感じているようだった。しかし思考のほうは、やや前向き気味にしていた。

 

「もしかして……っちゃけど、香川県からはまだ正式な依頼ばされちょらんのかもしれんちゃよ……これが対岸の岡山県やったら、もうちっとなんとかなったんかもねぇ……♐」

 

 このとき横から、涼子が身もフタもないセリフを言ってくれた。

 

『でも、もうここまで来ちゃったとやけ、今さらそれば言うても遅かっちゃよ☠ 今から岡山ば行くっちゅうたら、また時間ばっかし潰すことになるとやけ☢』

 

「う〜ん、それもそうっちゃねぇ〜〜☁」

 

 友美も涼子の(辛辣気味な)言葉には、くやしいちゃけどそんとおりっちゃね――とばかり、うなずく他にないようだ。

 

 ここで孝治たちから一時離れ、事の真相を読者向けに明かしてあげる。実は香川県から発せられた未来亭への海賊退治依頼は、大里の裏工作で衛兵隊の上層部(県の本部など)より一応は発令されたものの、それがまだ下っ端(末端の衛兵隊)までは伝わっていなかったのだ。

 

 これも上意下達の遅いお役所仕事の弊害が露呈したわけだが、ここは彼らだけを責めるわけにはいかない。それよりも大里の任務達成が早過ぎて、孝治たちにその恩恵が授けられなかった――とするほうが正しいだろう。

 

 敏腕も、時と場合によるミスをすることがあるものだ。


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