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『剣遊記\』

第四章 怒涛の海底探査行。

     (6)

 連絡船は無事(?)、松山港に到着した。

 

 約一名がびしょ濡れとなった以外、全員滞りなく、次の行程へ進路を定める準備ができた。

 

 松山港から四国北岸沿い航路の遊覧船に乗り換えて東へと向かい、二日間をかけて香川県の県都高松{たかまつ}市に到達。風を受けて疾走する帆船を利用すれば、徒歩で街道を進むよりもずっと早く、日程を消化できるわけ。日本列島は周囲を大洋に囲まれた四つの島と周辺の島々で成り立っているから、帆船技術がとても進歩しているのだ。

 

 まあ、帆船の帆を風に合わせて作動させる水夫たちの苦労は、見ていても並大抵の重労働ではないのだが。

 

 しかし問題は、むしろこれからであった。

 

「小豆島近くまで船出してつかって? あかんあかん! 海賊どもがいいかげんおるわい!」

 

「海賊どもがどっかしゃんするまで、どっちゃこっちゃならん!」

 

 小豆島付近まで行くためには、どうしても独自に航行してくれる船舶が必要だった。それも大型船とは言わないが、せめて十人ほどが乗れる小型船でもよい。

 

 だが、高松港の船乗りや漁師たちはみんな海賊を恐れ、誰ひとりとして船を貸し出そうとはしなかった。

 

 無論、同行もお断りされた。

 

 新参での登場とはいえ、海賊がこれほどの猛威を奮っていたとは。孝治たちも計算外だった。

 

「困ったばいねぇ……☹」

 

 高松港の岸壁から、眼前に広がる瀬戸内海を眺めながら、帆柱が両腕を組んでうなった。

 

「一隻でよか☝ とにかく船がなかことには、この先手も足も出せんばい……☁」

 

「まあず飛ぶだけ、これっきしで良かったらさぁ、あたしがすぐ行ってくんだべぇ✈」

 

 静香も帆柱の右横で、地団駄を踏みたいような顔をして立っていた。ふたりがこれほどにあせっているのだから、仲間の無事を心配する永二郎の不安は、もう張ち切れんばかりにふくらんでいることだろう。そんな永二郎の本心を知ってか。桂が大声を出して、岸壁で立ち尽くす面々に向かってわめき立てた。

 

「それだったら、あたしに行かせてつかーさい! 飛ぶのも泳ぐのも、がいにいっしょぞなぁ! こうなったらみんなで泳ぐんやがぁ!」

 

 しかし帆柱はこれに、恐らくくやしくて仕方がないであろう内心を交えて、桂に応じるしかないようだった。

 

「あいにくやけど……俺は泳げんと⛔」

 

 確かにケンタウロスの体型は、遊泳には向いていなかった。

 

 現在盗賊の正男が漁師たちとの交渉を続けて、あちこち駆け回っているのだが、吉報にはまだまだ程遠い状況と言えた。


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