『剣遊記\』 第四章 怒涛の海底探査行。 (4) この間に友美は、孝治に付き合えなくなった感じとなり、うしろで涼子といっしょに並んで、話の成り行きを眺めるだけにしていた。
「呆れたっちゃねぇ☢ 孝治ったら、どげんしたかて自分の名前が出るまであきらめんつもりやけ☠」
ところが友美に応える涼子のほうは、今やすっかり野次馬の気分に浸っていた。
『いいから、いいから♡ こん先の展開ば楽しみましょ♡』
こんな調子で、酒の席のほうも、今や完全絶好調。
「さあ! お酒ば一気飲みしたところで、五番手と行きましょっかぁ♪」
実は内心あせりまくりである孝治のお酌で、商人Aもかなりお酒が回ったようである。しだいにしゃべりの呂律{ろれつ}が、明らかにおかしくなっていた。だけどそれでも、孝治の催促には、律儀にきちんと答えてくれた。
「ご、五番みぇと言えびゃにゃあ……そうさなぁ……そうら! あいつがいらっけ!」
「うん! その『あいつ』ってなんね?」
「あいつと言へば……清美の下っ端にゃあなってるけろ、ドワーフ{大地の妖精族}の徳力良孝{とくりき よしたか}を忘れひゃあいけねえ……清美のでぇじな相棒よぉ……⛐」
「徳さんねぇ……☁」
まさか徳さんにまで順位負けしちまうなんち――孝治痛恨の一撃。しかしまだまだ、あきらめるわけにはいかなかった。
「よう! もっと寿司食いねェ! 鉄火巻きも食いねェ! ついでに芋焼酎も飲みねェ! で、もっとおるやろ! 未来亭の戦士っちゅうのはよぉ!」
「他にいらっけ?」
孝治から酒を飲まされ過ぎて、だんだんと目が据わってきた商人Aであった。だけど、一応真面目に考える思考力は、まだまだ健在でいた。
「そうらなぁ……ひょっろ待れ、オレの記憶回路を探ってみるべ……⛐」
「うんうん♡ もっと探って探って♡」
「おっといへねえ! オレとひたことが、いっち番でえじな野郎の名前を忘れてたじぇ⛐」
商人Aがほろ酔い混じりの苦笑いを浮かべ、自分で自分の頭を、ペシッと左手で叩いた。
「そうそう、そいつっちゃ! おれはそいつば待っとったと!」
孝治も半身どころか全身をもっと乗り出し、商人Aの真正面まで自分の顔を寄せた。
「さあさあさあ! もっともっとこげんなりゃ、なんでもかんでもちゃんぽんで酒ば飲みねェ! 飲みねェついでに、早くそいつの名前ば言ってくれんねェ!」
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