『剣遊記\』 第四章 怒涛の海底探査行。 (3) Aが思わず的な仰天顔となった。
「おっ? お姉ちゃんも、この話に興味があんのかい?」
「お姉ちゃん? ……そ、それでよかっちゃよ☠」
商人Aの言い方に、孝治は無茶苦茶な引っ掛かり気分を感じた。だけど実際、外見も肉体もそのとおりなので、その件はこれ以上続けないようにした。
「そ、それよかあんたら、北九州の未来亭の話ばしよんやろ☆ 実はおれもそん話に興味があるっちゃねぇ♡」
「ほほう、お姉ちゃんも気になるかい☺ その格好からして、さすがは女戦士ってとこだねぇ✌ 言葉づかいも男そのものだぜ☟ まあ、いいや♡ 気に入ったぜ!」
「うわっち!」
孝治は少しだけカチンときたが、ふたりの商人は、どうやら酒が、かなり回っているらしい。孝治を寛大な感じで、話に入れてくれた。
「ちょっと孝治、どげんするつもり?」
「しっ!」
うしろに立つ友美に右手人差し指を口元で立てて静かにさせ、孝治は話の続きを商人たちに催促した。
「で、未来亭の戦士の一番手は板堰先生っちねぇ♐ それやったら二番手ってのは、いったい誰ね?」
早くも聞き手の主導権を、Bに代わって孝治は握っていた。また千夏と涼子も孝治のうしろで、話をおもしろがって聞いていた。
『孝治ったら、自分の名前が出るんば期待しちょるとでしょ☻』
今の声は当然、孝治と友美にしか聞こえなかった。それなのに、まるで幽霊と息(?)をそろえているような千夏のはしゃぎっぷりが、この場においてもかなり浮いた感じでいた。
「わくわくわくわくですうぅぅぅ♡ 千夏ちゃんもぉお楽しみさんですうぅぅぅ♡」
このふたり(?)はさておき、商人Aが自信に満ちあふれている調子で、孝治の問いに答えてくれた。
「そりゃ未来亭の二番手とくりゃあ、ケンタウロスの帆柱正晃に尽きるよなぁ✌ そやつが五十人近い大山賊団をたったひとりで、いや一頭かな? とにかく撃退したって話は、遥か帝都はおろか、ここみてえな地方にまで響き渡ってるってもんだぜよ☝」
「帆柱先輩けぇ……☁」
これまた意気消沈なんだけど、孝治も認めないわけにはいかなかった。
「まあまあ、寿司食いねェ♡ 酒飲みねェ♡」
そう言って気を取り直した孝治の差し出した物は、商人たちが元から持参していた酒の肴{さかな}(先ほども記したとおり、船の売店で売っている)であった。
「お、おいおい! それはオイラのだぞ!」
相棒の商人Bが文句を垂れても知らんぷり。孝治はあくまでも、未来亭内での順位にこだわった。その前にちょっと、話題の矛先変えでAに訊いた。
「あんた、生まれはどこっちゃね?」
「おう! オレはこう見えても、東京は神田の生まれよ♫」
「そげんやったら生粋の江戸っ子ってとこやね♪ さあ、どんどん酒飲みねェ♡ 寿司食いねェ♡」
「だからそれはオイラのだって!」
「ありがとよ♡ げぷっ!」
Bを差し置いて、孝治とAだけで話は弾んでいた。
「さあ、二番手が出たところで、お次は三番手ってとこやけど、どげんやろっか?」
「ほんとに野郎みてえな話し方する姉ちゃんだなぁ♋ まあいいや☺ それより三番手は魚町進一ってとこでどうでい! なにしろそいつの身長ときたら、巨人にも匹敵するって話を聞くぜ」
「う……魚町先輩けぇ……で、四番手は誰?」
「おう! 女だてらに……」
「うん! 女だてらに?」
孝治はもはや、本能的に身を乗り出していた。自分が性転換の身である事実も、この際問わずにして。だけど期待は大外れ。
「本城清美{ほんじょう きよみ}ってのがいやあなぁ☀ なんつっても典型的な姐御肌の女猛者で、それでも義理人情には厚いそうだぜ✌」
今度はガクンと、孝治は前にコケそうになった。
「姉ちゃん、大丈夫かい?」
「お、おれんこつなら心配なか✋ それよかもっと酒飲みねェ! ビールも飲みねェ! ついでに赤ワインも飲みねェ!」
Aから心配されながらも、すでに孝治は必死であった。
「おお、お酌{しゃく}までしてもらって悪いねぇ、姉ちゃんよぉ☆」 (C)2013 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |