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『剣遊記\』

第四章 怒涛の海底探査行。

     (33)

 これにて全員、巨大ダコによって、囚われの身となったわけ。

 

(や、ヤバかぁーーっ!)

 

 声には出せないが、孝治は思いっきり叫びたい心境だった。この時点で唯一自由の身でいる者は、発光球姿の涼子だけとなっていたからだ。そんな孝治の瞳に、自由の身である発光球の涼子が巨大ダコに向かって、突入する光景が見えていた。

 

(うわっち! りょ、涼子ぉ! なんしよんねぇーーっ!)

 

 孝治の瞳には明らかに、涼子が無我夢中で巨大ダコに特攻をかけているように見えていた。恐らく涼子自身も、自分の力(ポルターガイスト)で巨大ダコに勝てるなどとは、これっぽっちも考えてはいないに違いない。しかしこの無茶ブリは、自分がどんな危険をやらかしてもまったく平気な幽霊の強み(?)が起こした、まさに涼子らしい振る舞いとも言えそうだ。それに加え、孝治たちの危機に、ついに涼子自身が我慢できなくなってしまったのかも――あとで訊いてみないとわからないが、むしろこちらの可能性のほうが大きいと思われそうだ。

 

 しかし涼子の無茶ブリは、孝治をまたも水中で叫ばせる結果となったわけ。

 

「がぁぐぅばがぁーーっ! (涼子ぉーーっ!)」

 

 実際、とても黙ってはいられなかった。これはもはや、なにをしても死なない幽霊であるという問題ではない。いや、それがたとえ前提であったとしても、やはり涼子の仲間を想う気持ちが、彼女に黙視する行為を許さなかったのかもしれない。

 

 だが、涼子の思いがけない行動は、巨大ダコにとっても不可思議な出来事であったようだ。


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