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『剣遊記\』

第四章 怒涛の海底探査行。

     (2)

「おっ? なんね?」

 

 孝治は思わず、声の方向に顔を向けた。そこでは旅の商人とおぼしき格好のふたりが甲板に腰を直接下ろして、なにやら雑談を交わしている真っ最中だった。

 

 座っているふたりの間には、船の売店で買ったらしい、酒やつまみ物が置かれていた。

 

 孝治は知らんぷりを装いながら、しっかりとふたりの会話に聞き耳を立てた。すぐに、最初に孝治の耳に入った声であるらしい旅の商人Aに対して、旅の商人Bが応じていた。

 

「未来亭だったらオイラも知ってるぜ☆ なんでも金の力で一流の戦士ばっかし集めてるって話だぜ☻」

 

 あんまし印象の良か話じゃなかっちゃねぇ――とは思いながらも、多少は当たっている部分もあったりして。この時点でも孝治は、まだまだ沈黙を続けていた。

 

 さらにふたりの会話は続行された。

 

「しっかし、金があろうとなかろうと、未来亭の面々が強面{こわもて}ぞろいってことに変わりはねえわな☞ 中でも一番の剣の使い手とくりゃあなぁ……✍」

 

「ふんふん✊」

 

 盗み聞きをしている孝治の耳にも、自然と力が入ってきた。

 

「なんつっても伝説の剣豪、その名も高き板堰守{いたびつ まもる}よ✌ そいつが持ってる魔剣『チェリー』ってのは、大岩でも一瞬にして真っ二つに叩っ斬るって話だぜ♐ 魑魅魍魎の怪物軍団をひとりで全滅させたって話も、あながちオーバーじゃねえようだぜ☀」

 

 孝治は少しだけ、ズリッとこけた。

 

「ま、まあ、板堰先生やったら、確かにこんおれかて尊敬の対象やけねぇ〜〜☁」

 

 名前に必ず『先生』と付けるところが、孝治の気持ちの表れといえた。

 

 今や未来亭の看板戦士となっている板堰は、魔剣チェリーこと魔神{ジニー}である福柳木千恵利{ふくりゅうぎ ちえり}と、弟子の北方大介{きたかた だいすけ}を引き連れ、現在関東は千葉県の山中(清澄山と聞く)にこもっての修行中。先週、その大介から手紙が届いたので、近況はよくわかっていた。

 

 ところで最初に板堰の名前が出てから、話がさらに盛り上がったご様子。Bが身を乗り出して、Aの話に聞き入っていた。

 

「ほう、一番が板堰守とはねぇ✍ それならオイラも納得だ✎ で、二番手は誰でぇ?」

 

「お、おれもそれが聞きたか!」

 

 ここでついに矢も盾もたまらなくなり、孝治は雑談に飛び入り参加した。


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