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『剣遊記\』

第四章 怒涛の海底探査行。

     (29)

 涼子の霊光に照らし出された第五開陽丸の船内は、孝治にとって一度乗った覚えがあるので、ある意味懐かしい思いがした。

 

 しかし今改めて見回せば、まさしく無残としか言いようのない状況でもあった。

 

 船室は至る所が略奪で荒らされ、目ぼしい家具や調度品のほとんどが紛失。海賊どもの暴虐の痕跡が、実に痛々しかった。

 

 孝治と桂は、お互いはぐれないよう、右手と左手を握り合って探索を続けた。そこでふたりは、あるひとつの光明を見つけ出していた。

 

(遺体ばいっちょも見つからんとやけ……乗っちょった人たちは生きちょるんかもしれんちゃねぇ……★)

 

 少なくとも、この船から船員が連れ出されるまではやね――などとは、孝治は絶対に考えないようにした。ひとつ確実に永二郎に報告できる材料は――海中では身振り手振りでむずかしい作業だが――船内で海賊に殺された者は、ひとりもおらんみたいっちゃ☘――と言う内容だった。

 

 また、言葉こそ交わしてはいないものの、孝治と同じ結論に達しているであろう桂は、今すぐにでも第五開陽丸から外に出ようとしていた。

 

 潜入のときとは逆になったが、孝治もすぐに涼子を伴って、船橋のドアから外に出た。


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