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『剣遊記\』

第四章 怒涛の海底探査行。

     (26)

 そんな適当な考えで泳いでいるうちに、孝治の前方に黒くて巨大な影が、涼子の霊光に照らされて浮かび上がってきた。

 

(うわっち?)

 

 その影に向かってさらに接近を試みると、それは明らかに、人造の建造物であった。

 

(うわっち! 気色悪かぁ! ついに沈没船の登場っちゃよ!)

 

 まさしく孝治の見たとおり、そのまんま。海底の砂場に鎮座をしている沈没船は、船体のあちらこちらが激しく損傷しており、正真正銘の幽霊船そのものだった。

 

 ここで孝治は、身振り手振りで涼子に船の上へ上昇するよう、指示を行なった。右手の人差し指を真上に突き刺す格好で。

 

涼子はすぐに了解してくれ、船の真上に移動を開始。霊光に照らされる範囲が、さらに拡大した。代わりに光量が、多少減る結果になるのだが。

 

(うわっち! こりゃひどかぁ!)

 

 霊光に照らし出された海底は、言葉のとおりに船の墓場だった。それも大小取り混ぜて何隻もの船舶が、海底の砂の上に横たわっていた。

 

 そのどれもが、沈んでまだ間もないようだった。なぜなら船体には貝殻や海藻の類などが、まだそれほどに付着をしていないからだ。

 

(これ……全部海賊の……なんやったろっか?)

 

 孝治は驚きのあまり、黒崎から教えられていたはずの海賊首領の名前をド忘れした。

 

(と、とにかくぅ……これば海賊のそいつがやったっちゅうとやろっか? これはこれで凄か海賊ったいねぇ……あれ?)

 

 海賊の暴れっぷりに、思わず感心をする孝治であった。このとき孝治の瞳に、美奈子の錦鯉がある沈没船の開いたままである左舷の丸い船窓から、すっと船内に侵入する姿が写った。

 

(まさか……美奈子さん☢)

 

 この一連の行動を目視して、孝治は美奈子の真の目的が、だいたいわかるような気がしてきた。

 

(やっぱ護衛っちゅうのは口実で、ほんとは沈没船の宝探しするつもりやったっちゃねぇ……☻)

 

 しかしよくよく考えてみれば、美奈子を海賊退治に誘ったエサは、たぶん海賊が貯め込んどるやなかろっか――と思われている宝の山を、孝治自身で吹聴した結果にあったのだ。それで恐らく美奈子は、沈められてはる船にお宝が残されとるんやないでっしょうなぁ――と思って、ここで単独行動に出たのだろう。

 

 やはり、いきなり海底探査に参加したほんなこつの理由はこれやったんやろうねぇ――と、孝治は勝手に結論づけた。

 

 そんな欲望丸出しに見える美奈子ではあったが、孝治は彼女を責める気にはならなかった。なぜならどのように考えても、ここは海賊が船から物資などを略奪したあとの――言わばゴミ捨て場なのだ。そのような所にたとえ金貨の一枚であろうと、残っている可能性は極めて低いと思えていた。また仮にあったとしても、それこそ万分の一の確率でしかないに違いない。

 

(それでも、その万分の一に賭けてみるっちゃね……まっ、勝手に探せばよかっちゃね☻ どうせ光(涼子)もなかっちゃけ★ それにおれん考えやったら、ここにゃあもうお宝なんち、いっちょもなかっち思うっちゃけ✄)

 

 やがて美奈子も宝探しをあきらめ、自分たちの所に戻ってくるだろう。孝治はそのように考えながら、先行している桂と永二郎の元へと、急いで泳いで向かった。


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