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『剣遊記\』

第四章 怒涛の海底探査行。

     (23)

 そこへ今度は、大きな鳥の羽ばたき音がした。

 

 今まで上空を旋回飛行していた静香が、これまた優雅な仕草で、漁船の甲板に舞い降りたのだ。

 

「ちっとんべ空から見たんだけどねぇ✈」

 

 バードマンである静香は帆柱からの指示を受け、付近の海域を事前偵察していた。

 

「この辺りにあたしたちいげぇの船、まあずなかっただんべぇ⛔ 念のため鬼ヶ島さちっと寄ってみたんだげどぉ、海岸で火ぃなから燃やしてんだがね♳」

 

「なるほどぉ……海賊どももやはり、俺たちんこつ警戒しちょるんやねぇ♘」

 

 孝治と友美と発光球(涼子)には今も背を向けたまま、帆柱が静香の報告にうなずいた。それから、ひと言。

 

「まあ、それはよかけんが……孝治っ! 早よ海に飛び込んでくれんね! こんまんまじゃ首ん骨が痛とうてかなわんけ☠」

 

「おれも息が苦しかけね!」

 

「うわっち! は、はい!」

 

 背中を向けたままの先輩と、首を絞められたままのワーウルフから、そろって急き立てられる格好。孝治は口に短剣をくわえ、慌てて甲板を下りて海面に、足元からバッシャアアアンンと飛び込んだ。

 

「さっ、永二郎さん、あたしたちもいんでこーわい☞☞」

 

「う……うん☁」

 

 続いて桂もドッボォォォンと、海水に身を浸けた。するとただちに、彼女の二本の足が融合して、魚体へと変形。本来の姿である人魚への還元が行なわれた。ところが肝心の永二郎は、なぜか海への飛び込みを、ためらっている様子でいた。

 

「永二郎さんも、早ようしてつかーさぁーーい!」

 

 しかし海面から頭を出した桂に催促をされ、股間を両手で隠した格好――つまり孝治と同じで真っ裸(これがためらいの理由だろうか☛)で、意を決しての大ジャンプを決行。バッシャアアアアアアアンッッッと、派手な水しぶきを撒き散らした。

 

 もちろん永二郎も水に入ったとたん、全身の細胞が急激な膨張を開始。人間の姿だったモノを、巨大なシャチへと変貌させた。

 

『おっと、あたしも行かんとね✈』

 

「気ぃつけるっちゃよぉ!」

 

 最後に友美の見送りを受けながら、涼子も発光球の姿で海面に飛び込んだ。あとで孝治は友美から聞いたのだが、涼子の潜る様をジッと見つめていると、まるでウィル・オー・ウィスプの灯火が水中で揺らいでいるような、夢みたいな幻想の光景だったと言う。

 

「友美ちゃんの魔術もなっから凄いべぇ☆ 水ん中でも消えねえ光さ創れるんだがらぁ☺☼」

 

 本当の話(幽霊涼子の存在)を知らない静香が、ここで友美に感心の声をかけた。無論静香は女性であるから、殿方たちのように、背を向ける必要はなし。堂々と孝治たち海底探査隊の一行を見送っていた。

 

 おっと、一行にも殿方がひとり――永二郎も参加しているのだが(もはや孝治は全然問題なし☻)、特に気にしている素振りも、静香にはなかった。

 

「おまけに二種類の魔術さ同時に使うだなんて、友美ちゃんってなから魔術の天才だんべぇ☺☀」

 

「……そ、それはやねぇ……ほほっ(苦笑)☁☻」

 

 静香が手放しで絶賛をしてくれた。しかし真実が言えない友美はここでもやはり、苦心の作り笑顔でごまかすしかなかった。


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