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『剣遊記\』

第四章 怒涛の海底探査行。

     (22)

「ほな、うちから先に行かせてもうてかまへんどすね☺ 千秋、千夏、あとのことはお頼み申しますえ♡」

 

「合点承知の介やで、師匠♡」

 

「はぁっーーい♡ 千秋ちゃんとぉ千夏ちゃんにぃ、お任せくだしゃいさんですうぅぅぅ♡」

 

 いったいなにを任されているのやら。孝治たちギャラリーには、皆目不明。それでも千秋はともかく、美奈子の黒衣を預かっている千夏の超新星的明るさは、現在夜間であるにも関わらずの全開ぶりでいた。

 

 それからなにもためらう素振りもなし。美奈子が船上からバシャッと、暗い海面に頭から飛び込んだ。

 

 しかも天才魔術師である美奈子は、水泳もけっこう達者でいた。そのまま漁船から少し離れ、海面上でなにやらぶつぶつと、呪文を唱え始めた。それもどうやら、孝治にはまったく意味のわからない、高度な魔術の呪文のようであった。

 

「美奈子さん……今回はなんするつもりやろっか?」

 

「あれも変身魔術の呪文ちゃね☛ 前に聞いたことがあるのと単語が少し変わっとうけ、たぶんコブラやのうて別の動物になるみたい✍」

 

 魔術の博学にくわしい友美が、海面上でしだいに発光を始める美奈子を見つめながら、孝治に説明してくれた。

 

「なんでん良かっちゃよ✊ コブラにならんかったらね……☹」

 

 友美の解説を受けて、孝治は本心からそのように願いつつ、ポツリとつぶやいた。実際暗い海底で白コブラと競泳など、絶対に願い下げにしたいところだ。

 

『そやかて、海にはウミヘビっちゅうのもおるんやけ、どげなとこかしらねぇ? ウミヘビも猛毒で有名ばい☠』

 

「ちゃーらんこつ、言わんでよか!」

 

 涼子のつまらない付け加えセリフで、一瞬だけだが、孝治は背筋がヒヤリの思いとなった。しかも現在、本当に全裸で海の上にいるのだから、潮風が背中に当たったせいもあるようだ。また、このような涼子の冷やかしは抜きにしても、確かに美奈子なら同じヘビってことで、ウミヘビへの変身もあったりして。

 

「まさか……美奈子さん……ねぇ……☢」

 

 ところが孝治の不安は、簡単に杞憂となった。

 

 変身の前兆である青くて淡い発光をしていた美奈子の全身が、瞬時にしてその姿を変形させたのだ。

 

「ああっ! あれって!」

 

『あたしも見たことある魚っちゃよ!』

 

 友美と涼子が、そろって驚きの声を上げた。おまけで孝治は素っ裸のまんま、甲板上ですっ転んだ。それと言うのも美奈子が変身した動物は、白い魚体に黒と紅の斑模様が美しい、錦鯉であったからだ。そのコイが海面上に身を弾ませる姿は、幻想的のようでいて、実は違和感ありありなものだった。

 

「どげんして海に淡水魚がおるとねぇ!」

 

 孝治の叫び。このついでか、友美が千秋に尋ねた。

 

「ねえ! あれももしかして……美奈子さんがどっかで錦鯉ば見て……そのぉ、気に入っちゃったとぉ?」

 

 すると千秋は満面に笑みを浮かべ、友美の問いに、さもうれしそうに答えてくれた。

 

「そやねんな♡ 師匠と千秋はずっと前に、仰山デカい、ある屋敷に行ったことがあるんやけどな♐ そこでこれまたデッカい池があって、そこで泳いどるコイを見て、ほんま感激したみたいに師匠がえろう綺麗でおますなぁって言いよったで♡」

 

「美奈子さんっち、自分が好きになったら、もうなんでも良かなんやねぇ……☻」

 

 漁船間近の海面を優雅に泳ぐ錦鯉の姿を見下ろし、友美がしみじみとつぶやいた。

 

 当然孝治も、同じ思いでいた。

 

「美奈子さんの変身のレパートリーっち、いったいどんくらいあるとやろっか?」


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