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『剣遊記\』

第四章 怒涛の海底探査行。

     (21)

「とにかく……これで準備よかっちゃよ✌ 水ん中でもふつうに息ばできるようにしとうけ⛽」

 

「ありがと♡」

 

 素潜りに先立ち、孝治は友美から、『水中適応』の魔術をかけられていた。この術にかかっていれば、いちいち息継ぎのために、海面まで上がる必要がなくなるわけ。さらに友美は同じ魔術を、永二郎にもかけていた。

 

「ふたり分ばいっぺんに……おまけに持続性ば入れてかけたっちゃけ、わたしにできることはこれまでっちゃよ♠ やきーあとは涼子にお願いするとやけ☞」

 

『はぁーーい♡』

 

 涼子の友美への返事は、孝治の左横で浮遊をしている青白い発光球――ウィル・オー・ウィスプ{鬼火}から発せられた。

 

 まさに見たまんま――ついでに聞いたまんまの明るい返事であった。

 

「ウィル・オー・ウィスプになっちょう涼子ば見るっちゅうのも、すっげえひさしぶりっちゃねぇ✍」

 

 孝治のつぶやきに、さっそくウィル・オー・ウィスプ――涼子から返事が戻ってきた。

 

『ほんなこつそうっちゃねぇ✋ あたしもこればやると、ずっと前に島根の石見銀山に行って以来っちゃよ✍』

 

 初めて涼子がウィル・オー・ウィスプに変身――と言うよりも、変形した日の出来事を思い出す孝治。これに応える当の幽霊――涼子の声は、実体に似合わないほど実に溌剌としていた。

 

 幽霊である涼子は、自分の体を丸めて凝縮する能力によって、霊体をウィル・オー・ウィスプに変えることができるのだ。しかもいったんウィル・オー・ウィスプになってしまえば、自らが発光する青白い霊光――いわゆるオーラで、周囲を明るく照らす力までが発揮されるわけ。

 

 つまり極めて利用価値の高い、自動浮遊照明の出来上がりとなる。

 

 その自動照明――涼子――発光球からの、ペチャクチャ話が続いた。孝治と友美だけに聞こえる範囲内で。

 

『おまけに空中でも水ん中でも関係なしに、二十四時間どこでも光れるっちゃけね♡ あたしって便利やろ♡』

 

 これに友美は、少々苦笑気味の顔でいた。

 

「便利ば自慢すんのもよかっちゃけど、ここはあくまでもわたしが魔術で創った発光球に徹するっちゃよ✊ もしウィル・オー・ウィスプなんちことがバレたら、変なことで大騒ぎになるっちゃけ☠☢」

 

『わかっとうって♡』

 

 ウィル・オー・ウィスプになっていても、涼子の超明るい性格が変わる話とはならないのだ。むしろ光り輝く分、そのものズバリになっていたりして。

 

「ほんなこつ、わかっとんやろっか?」

 

 念には念を押したつもりの友美であるようだが、恐らく内心では、一抹の『?』がめばえているのだろう。

 

「本当なら、ひとりの魔術師がふたつの種類が異なる魔術ばいっぺんに使えるなんちこつ、絶対にないんやけ♐ そこんところ、くれぐれも怪しゅう思われんようにしといてや⚠」

 

「特に……美奈子さんにはね……⛔」

 

 友美と孝治。ふたりそろって必要以上に注意心を意識している美奈子は、やはり素潜りを実行するため、甲板で黒衣を脱いでいた。

 

 同じ船上には帆柱と正男。さらには老漁夫などの殿方たちもいるのに、相変わらずの堂々とした脱ぎっぷりであった。

 

 ちなみに孝治の存在も、まったく気にもしていないご様子。ここでも同じ話を繰り返すが、とっくに孝治の正体(元男性)を知っているというのに。


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