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『剣遊記\』

第四章 怒涛の海底探査行。

     (1)

 孝治たち一行を乗せた連絡船が、北九州港を出港。一路四国の松山港へと向かっていた。

 

 今回の一行は、まさにそうそうたる顔ぶれだった。まずは帆柱を長とする戦士組が、孝治と静香で三人。魔術師組は友美と美奈子に、弟子の千秋、千夏の姉妹。盗賊の正男。おまけが幽霊の涼子となっていた。

 

 主役はもちろん、海賊にさらわれた仲間の救出に向かう永二郎であり、桂もいっしょに同行。彼女は明らかに着慣れていない女性用の革鎧を着用しているが、これは由香が桂に貸し与えた物だった。

 

 ただし永二郎は、孝治と帆柱にポツリと本心を話していたのだが、おれは桂を危険な海域に連れてりっかぁはなかったんさー――と言っていた。だけど、永二郎の本当の気持ちを聞いていない桂が、強引に同行を主張。

 

「あたしも行かせてつかーさい! 海んことじゃけん、あたしもきっと役に立つぞなぁ!」

 

 孝治たちもけっきょく彼女の熱意に折れ、同行を受け入れた格好となっていた。永二郎の本心を、桂には教えていなかった理由もあるが。

 

「まっ、バードマンの静香もおるっちゃけ、これで人魚の桂かて加わったら、まさに陸海空の立体攻撃っちゃよ☆」

 

 孝治は大きな責任を感じながら、桂の同行を認めたのであった。

 

「あげんこつ言うたっちゃけ、いざっちなったら、きちんと桂ば守るっちゃよ☞」

 

「わかっとうって✊」

 

 孝治は友美からも、しっかりと釘を刺されていた。それから孝治は、この件を早くも、棚の上や脇の下(気分の話)に置いていた。

 

「四国に行く船旅っちゅうのも、ひさしぶりっちゃねぇ〜〜♥」

 

『そうっちゃねぇ〜〜♥』

 

「でも前んときは、荒生田先輩といっしょやったもんねぇ☻」

 

「へぇ〜〜、そうなんでしゅかぁ〜〜☀」

 

 孝治、涼子、友美、さらに千夏の四人は上甲板左舷{さげん}側の手すりに体をもたれかけ、遥か水平線を眺めていた――とは言え、ここはせまい瀬戸内海の西部。水平線の彼方には薄ぼんやりと、本州や九州の山々が、やや霞みながらも、連なって見えていた。

 

 ちなみにこの四人以外は、現在船室にて休憩中。

 

 日本中を美奈子、千秋と周ったと、いつも自慢している割には、千夏は船旅は今回が初めてらしかった。だから最初は子供みたいに(まさにそのまんまであるが)、上甲板を船首から船尾まで走り回っていたのだが、現在はさすがにお疲れのご様子。孝治たちと並んで、海原を眺めるほうに回っていた。それでも船酔いとはまったく無縁でいるところが、誰かさん(某魔術師)よりは遥かに強靭といえたりして。

 

「ねえ、あろうだせんぱいさんってぇ、いったい誰さんなんですかぁ?」

 

 その千夏の無邪気そうな質問に、孝治は簡単に答えてやった。

 

「一生知らんでもよか人っちゃよ☢」

 

 などと横柄に答えてやったものの、そげん言うたら千夏ちゃんはまだ、荒生田先輩とは会ったことなかったちゃねぇ――と、改めて考えたりもした。

 

 そんな孝治の右隣りでは、涼子と友美がくすくすと微笑んでいた。

 

 ところがこのとき孝治の耳に、ある変な会話が飛び込んできた。

 

「そりゃ未来亭って言ったら、大した戦士がそろってやがんので有名よ!」


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