『剣遊記\』 第四章 怒涛の海底探査行。 (15) 「……どうやら、見つかったようやな⚇⚆」
老漁夫が船の帆を素早く畳み、進行を停止させた。
「ご老人、なぜそれがわかるとですか?」
島を見つめたままで帆柱が尋ねると、老漁夫は島の高台――ふたつの角のような岩山の東のほうを、右手で指差した。
「あそこに立っとる櫓から、こっちを見とるモンがおったきにのぉ☛」
言われて一同は、指定をされた岩山に、そろって視線を集中させた。かなり遠くなのでわかりづらいが、確かに高台の上に、櫓のような木造の建造物があった。
「まあずかっこぶぅ(群馬弁で『かっこいい』)! おじいちゃん、ながら遠くのモンが見えるっぺぇ!」
静香が老漁夫の、とんでもない遠視力に驚嘆した。空を飛べるバードマンは、視力でもふつうの人間を遥かに凌駕するものである。だが、船から櫓とおぼしき建物までの距離は、そのバードマンの限界さえも超えたものだったのだ。これも海を生業の場とする、漁師のなせる技なのであろうか。
「……さて、これからどうするきに?」
ここでいったん一同に振り返り、老漁夫が静かな口調で、全員向けに問いかけた。
「今なら引き返すげなもええし、……やけんど、それは誰も言わんきん思うがのぉ……☻」
「当たり前っさー!」
永二郎がムキを丸出しで、老漁夫に答えた。
「あのシマには船長やおれのでーじ大切な仲間がいっぺー捕まってるんさー! やしが、この船が引き返してもさー、おれだけでもひんぎないで助けに行くんさー!」
「永二郎さんが行くんやったら、あたしも行くやが!」
こうなると、桂も永二郎とは一心同体。ふたりの決意の固さは孝治たちも先刻承知済みであるが、どうしてだか老漁夫までもが、桂と永二郎に優しくうなずきを返してやった。
「わかったきに☻ あんたらだけを危ない所に行かせはせんきに☺ あずる(香川弁で『苦労する』)ことはあるけんど、わしも最後までお伴するきん☭」
「……それはありがたいっちゃけど……♐」
横から帆柱が、老漁夫の言葉に口をはさんだ。
「ご老人、なしてそこまで俺たちんために尽くしてくれるとや? なんか理由でもあるとね?」
するとこれに、老漁夫が軽そうな含み笑いを浮かべた。それに加えておまけなのか、実にあっけらかんと答えてくれた。
「なに、めんどいのぉ☻ 理由なら出発前に言うたきんのぉ☜ わしゃあとにかく、海賊どもがいかさまあんじゃるいだけじゃな☻」
だが帆柱も無論であろうけど、孝治もこれでますます、老漁夫に対する変な気持ちを倍加させていった。
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