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『剣遊記\』

第四章 怒涛の海底探査行。

     (11)

「やれやれっちゃねぇ☻ やっと出発できたっちゃけ☹」

 

「ほんなこつ、こん先どげんなるっちゃろっかっち、一時は本気で心配しちゃったけね、おれは☢」

 

 それほど広くはない甲板の隅っこで、孝治と正男は並んで腰を下ろして座り込んでいた。そこへふたりの先輩である帆柱が寄って、そっと小声で話しかけてきた。

 

「よかや☞ あのご老人は一見したところ善人のようやが、やっぱ油断は禁物やけね⚠⛔ とにかく注意ば怠るな✄」

 

「は、はい……⚤」

 

 孝治は揺れる船の上でも、ゴクリとツバをひん飲んだ。帆柱は続けて、甲板の左舷で談笑していた静香と友美にも、同じ忠告を行なっていた。船橋で舵{かじ}を取っている老漁夫には、気づかれないようにして。

 

『初めて仕事いっしょにしちゃったとやけど、帆柱先輩っち、ほんなこつ厳しかねぇ〜〜⚠』

 

 実は先ほどからずっと、孝治の右に控えている涼子が、ケンタウロスの大きな体格を見上げながら、しみじみとつぶやいた。

 

『ねえ、もしかして帆柱先輩って、石頭け?』

 

 涼子の問いに、孝治は苦笑いの思いとなった。

 

「そんとおり……って言えるとやけど、誰かさんと好対照なんもまた確かっちゃねぇ☻ そしてまた好対照同士、あれでけっこう仲がええんやけ、世の中ほんなこつ変わっとうっちゃねぇ〜〜☆★」

 

 その『誰かさん』のニヤけたサングラス顔を思い浮かべ、孝治はこれまた思わず、くすっと吹き出した。

 

『ほんまやねぇ〜〜、そん話って☛』

 

 涼子も考えは同じのようだった。

 

 このとき孝治は、左隣りに並んでいる正男から、いきなり変なセリフを言われた。これはたぶん、突然ひとり笑いを始めたように見えた孝治を、正男が不思議に感じたようであったからだろう。

 

「おまえ……なん急に、思い出し笑いなんかしようとや? 端で見よったら気色悪かぞ♋」


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