『剣遊記番外編V』 第四章 邪教壊滅作戦。 (8) 「ひえっ! な、なんじゃあーーっ!」
凄まじい爆発音で、ここらでやっと、司祭が気絶から覚めたようだ。
「ぎえっ! ビホルダー様ぁーーっ!」
さらに祭壇の大破壊を目の当たりにして、司祭は自分がノンビリと気絶をしている場合ではない事態にも気づいたらしい。右手に今も矢が刺さっている状態で、司祭が憤怒の目を、可奈と狼のほうへ向けた。
これはもはや、怒りが痛みを超越した結果なのだろうか。またこの様子は、初めは自分の血恐怖症だと思えた司祭が、実は二重人格でしたと言いたいほどのド根性であることも教えてくれた。
「うおのれぇ〜〜っ♨ 貴様らぁ〜〜♨」
「おいだれぇ! 文句こくでねえ!」
負けじと可奈も、司祭をにらみ返してやった。ちなみに火花を散らし合っている者は、現在可奈と司祭のふたりだけ。その他の手下どもは皆、狼こと珠緒の牙によって、苦もなく地面にねじ伏せられていた。
ある者は足の腱を噛み切られ、またある者は両手に手酷い傷を負って、完全に再起不能の戦意喪失状態。とにかくどいつもこいつも、地の上で狼に屈するばかり。二十人もの人手がありながら、てんでだらしのない連中だった。そんな勝ち目ゼロの状況にも関わらず、司祭はまだまだ吠え続けた。
「貴様ら我らの神……ビホルダー様を、本気で怒らせてくれたじゃんかよぉ〜〜♨」
この期に及んで崇拝――と言うより、悪魔の威をひけらかすところが、この司祭のミソでもあるようだ。可奈はこれに、言葉を返してやった。
「なんべんもごしたいけ言わせんでほしいずら! さけぇビホルダーなんて、神でも悪魔でものうて、ただの怪物なんだにぃ!」
ところがそんなときだった。
「チョット、待タンカヨォーーッ!」
これまで聞いた覚えもないような、迫力こそあるが人とは異質な声音が、突如現場一帯に轟き渡った。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |