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『剣遊記番外編V』

第四章 邪教壊滅作戦。

     (7)

「わんだれらぁ! 覚悟するずらよぉ!」

 

 自分の出血で、いまだ気絶状態にある司祭を始め、悪魔崇拝集団に早くも可奈は、逆襲の魔術をかけてやる気でいた。

 

 だが、それよりも早かった。

 

「うおおおおおーーん!」

 

「えっ?」

 

 黒衣の女魔術師とニホンカモシカの頭上を飛び越え、一頭の黒い獣のシルエットが、白装束たちのド真ん中に突入した。

 

「な、なに、今のって?」

 

 可奈は最初仰天。なにがなんだかわからなかった。しかしだんだんと瞳が慣れるに従って、しっかりと状況の把握ができるようになってきた。

 

「狼っ!」

 

 確かにそこには狼🐺がいた。

 

 逆光のためにシルエットしか見えなかったその姿も、今でははっきりと、茶色の剛毛だと認識ができるようになった。しかもその狼は、明らかに可奈と美香の救援として、悪魔崇拝集団の中に飛び込んだ――としか思えなかった。そんな無茶をしてくれそうな狼といえば、可奈の記憶に該当する限りでは、たった一頭しかこの世に存在しなかった。

 

「珠緒っ! 珠緒ずらね!」

 

「わおん♡」

 

 完全に慌てふためいている野郎どもの中にあって、狼には可奈に応じるだけの余裕があった。これはそれだけ、奇襲がうまくいった証しなのであろう。

 

 一時は珠緒も、悪魔崇拝集団と関係があるんだけ?――などと疑った可奈であった。だけどこうなればもはや、些細な疑惑(?)など、遥か忘却の彼方。都合の悪い記憶を、これまたすぐに忘れる早業も、可奈の隠れた妙技(?)なのだ。

 

「とにかくここは礼さ言うだに! 美香ぁ、ちっとべぇ下がってましょーーっ!」

 

 カモシカ――美香を自分の背後に後退させ、可奈は攻撃魔術の構えを取った。こんな場合に仕掛ける魔術は、一種の定番――火炎弾の他にはなかった。

 

「はあっ!」

 

 とっさの早口で唱えた呪文により、前方に向けた可奈の両方の手の平から、人頭大の炎の塊が発射された。

 

 その塊がまっすぐ、グオオオオオオッッと祭壇のド真ん中に突っ込んだ。

 

 もちろんグッワガアアアアアアンンと、悪魔崇拝集団が心の拠り所としているであろう象徴を、物の見事に粉砕した。


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