『剣遊記番外編V』 第四章 邪教壊滅作戦。 (6) 「うぐぐっ! ううっ!(いつまであたしの手さ握ってんずらぁーーっ!)」
縛られているとはいえ、両足の自由は健在であった。そうでなければ、ここまで連れてこられるわけがないのだから。そんな理由と元から兼ね備えている猛々しさで、可奈は自分の左右に控えている野郎ふたりを、これまた思いっきりに右足で蹴り上げてやった。
当然ここでも、股間を狙って。
「ぎゃざっ!」
「びじぇっ!」
そこへ親友の危機を助けようとしてか、美香が猛突進! ふたりの白装束に、ボゴォッと体当たりを決行した。
あまり知られてはいないのだが、カモシカは、これでけっこうな石頭。つまり、頭に生えている二本の角だけが、武器というわけではないのだ。その美香の頭突きをもろに喰らったふたりが、そのまま遥か後方まで吹っ飛んだ。この間に可奈は、忌まわしい縄の戒めを解こうと、試しに魔術――解除の呪文を口中で唱えてみた。その結果、我が身を縛っていた荒縄が、ホロリと足元に落ちてくれた。
(できたずらぁ♡♡)
すぐに自由の身となった両手で、口の猿ぐつわも自分で外した。
これらの僥倖を顧みれば、やはり可奈の魔力を封じていた者は、現在気絶中の司祭だったわけとなる。それが矢を射られた痛撃で気を失ったので、封印までが有り難く解けてくれたのだろう。
「ぴぃーーっ!」
完全自由の身となった可奈の元へ、美香が大急ぎで駆けつけた。
「美香っ!」
可奈も美香の灰色をした毛皮に、ヒシッと抱きついた。こうしてふたり、そろって囚われの身から解放された以上、もはや遠慮もためらいも無用であった。
絶体絶命の危機が、あるきっかけを起点として、たちまちの大逆転! 世間でよくある、御都合主義の一環であろう(ほんとけ?)。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |