『剣遊記番外編V』 第四章 邪教壊滅作戦。 (5) (えっ?)
これを不思議と思う暇もなく、続いてもう一度だった。
「ぐげっ!」
先ほどとは明らかに別人の声だが(金髪野郎のようだ)、またも男の悲鳴が繰り返された。
「な、なんだぁ! どうしたってんだよぉ!」
驚いている有様は、可奈を抑えている男たちも同じであった。
「げえっ! 司祭様ぁ!」
「きゃっ!」
声につられて可奈も見た。儀式を司る司祭の右手のうしろに、深々と一本の矢が突き刺さっていた。これでは手に斧を持つ力が入らないのも当たり前。祭壇から地面まで、ゴトッと落としていた。
さらにやはりと言うか、白装束でわからなかったが金髪の左腕にも、同じ型の矢が命中していた。
「いってえーーよぉーーっ!!」
腕に矢が刺さっている金髪が、まるで子供のように泣きわめいた。しかも当然ながら、ふたりしてかなりの大出血となっていた。
司祭が叫んだ。
「うっぎゃああああああっ! 血がぁ! オレの血がぁーーっ!」
司祭は生け贄の血は大好きなようだが、逆に自分の血は大嫌いな性分を露呈した。そのため、実に情けない有様。この場で一番偉いくせして、そのままあえなく祭壇上で失神。
「あひゃあ……☠☢」
見上げるほどの体格が、ゆっくりと壇上から崩れ落ちていった。
美香を抑えている仲間たちの、もろ真上から。
「ひいーーっ!」
下にいる白装束たちが慌てふためくその隙を、野生児である美香が見逃さなかった。
「ぴいーーっ!」
すぐに自分の右後ろ足を両手でつかんでいる男の股間を、満身の力を込めて、両足でギャボッとうしろ蹴り!
「ぎゃぼぉげぇ!」
このような場合なぜか、急所ばかりに攻撃が集中するもの。
さらに人間の足では絶対に追い着けない俊足で、その場からの大ジャンプを披露した。
「ぎえーーっ!」
美香がいなくなったあとに残った、男たち六人。あえなく倒れ落ちてきた司祭の下敷きとなった。グシャッと音を立てて。
「ひえっ! 司祭様が死んだぁ!」
いったいなにが起こったのか。どうやらてんでわかっていない模様。それでも司祭の突然の最期――本当は気絶しているだけだろう――を見て、残りの白装束集団が、一斉に動揺をあらわにした。
無論可奈とて、この騒ぎに乗じない手はなかった。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |