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『剣遊記番外編V』

第四章 邪教壊滅作戦。

     (3)

 しかし、肩書きは同じ司祭であるとしても、問題は、その中身なのだ。

 

 司祭とやらが金髪の手下に顔を向け、考える素振りで両腕を組み、ついでに首も右にひねった。

 

「そうやのぉ……生け贄のやり方だったらビホルダー様からのご教示は、特にねえからなぁ☁」

 

(ずいぶん、ええ加減な連中ずらねぇ……☠)

 

 可奈はそう考えたが、口に出すのはやめておいた。なんにせよ、可奈と美香からしてみれば、どんなやり方であろうと、迷惑千万な選択なのだ。だが司祭の言葉を受けた金髪野郎の顔が、このとき急激に好色で染まった様子を、可奈は敏感に感じ取っていた。

 

「ちっとべぇ……こりゃヤバいずらねぇ☠」

 

 すぐに金髪が、本心を明け透けに語ってくれた。

 

「それだったら、まずはカモシカんほうから、先に生け贄に使いましょうじゃん♡ やり方はあとで考えるとして♥ ライカンスロープでも動物の姿だったら、別に問題ねえし♡ で、女のほうは次の回まで、俺たちで楽しむってのはどうですじゃろ?」

 

「うん、それもええかもしれん♡♥」

 

 ハゲ頭もその意見にうなずいた。それこそまさに、超迷惑な話であった。

 

「じょ、冗談じゃねえずらよ!」

 

 可奈は甲高い声を張り上げてやった。悪魔の論理に惑わされているとは言え、もともとから山賊だったような連中なのだ。だから初めっから、倫理も情けもへったくれもねえ――とは思っていた。だがこんなにも早く、その本性が、この場にて出てこようとは。

 

 まさしくこれでは、外道の論理。

 

「わんだれら! ビホルダービホルダーっとかの名前さ使ってるけど、ほんにそれこそ悪魔の威さ借りて、好き放題やってるだけだにぃ! ほんとはわんだれらの本心は、ただのスケベじゃねえかぁ!」

 

「かったりぃ! この女、もう一度静かにさせて、二度とくっちゃべさせんじゃねえ!」

 

 いまだ縛られたままで猛然と喰らいつく可奈に、司祭が顔面紅潮気味となって、部下たちに命じた。

 

「ぺっ!」

 

 その真っ赤な顔に向けて可奈は、口からツバを吐いてやった。床に座った姿勢から、直立している司祭の顔までツバを飛ばすのだから、可奈のこの行動は考えてみれば、かなりの肺活量ともいえそうだ。

 

「司祭様っ!」

 

 手下どもが驚がくで凍り付く前だった。司祭が右の頬に付いた可奈の唾液を、自分の白装束の左側の袖でぬぐい落とした。しかも彼の表情は、さらに激しく紅潮化していた。

 

「おい!」

 

 それなりに慇懃だった口調も、今やはっきりと怒りの感情がにじんでいた。

 

「はい! なんでしょう!」

 

 さすがに緊張気味となったのか、金髪野郎までが直立不動の姿勢になって、司祭に応じていた。この男、屈強そうな体格と残忍そうな性格の割には、案外小心の気もあるような感じでいた。

 

 そんな金髪に、司祭が命じた。

 

「決めた! 今からやる儀式に、この女も連れていくんじゃ! このライカンスロープとは只ならぬ仲のようじゃからなぁ☠ この女の前で、カモシカの首を斬ってやろうじゃん!」

 

「ええーーっ!」

 

 司祭の逆ギレ発言で、可奈は縛られた格好のままで飛び上がった。

 

 実に器用な魔術師である――とまあ、その件はこの際棚上げ。それよりも司祭は、ツバを吐かれた腹いせ。可奈の目の前で、親友の首を斬る――と言うのだ。

 

 どこまでも残忍な連中なのだろうか。

 

「そんなこんねえだろぉーーっ!」

 

 今さら遅いが、ツバ吐きを可奈は真剣に後悔した。その一方で金髪野郎は、司祭の命令を、もろ喜び顔で承諾していた。

 

「へい! わっかりやしたぁ♡」

 

 それから今も眠ったままでいる美香――カモシカの体を、そいつひとりで軽々とかつぎ上げた。

 

「よっこらせっと✌」

 

 見かけにふさわしく、かなりの腕力を備えた男であった。

 

 その金髪が幽閉の部屋から出ていったあとだった。司祭が部屋にまだいるふたり(右ほっぺに傷付きと、黒縁メガネ)の手下たちに、もうひと言を付け加えた。

 

「おめえらはこの女を連れてこい☠」

 

「へい、わかってまさぁ♡」

 

 最初に部屋に来た男ふたりが、司祭に軽い調子で返事を戻した。まるで心臓が縮み上がるような悪意のこもった薄ら笑いを、可奈へと向けてくれながらで。


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