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『剣遊記番外編V』

第四章 邪教壊滅作戦。

     (15)

 悪魔集団――ならぬ、ただの山賊たちは、この場にて放置と決めた。

 

 もちろん主犯であるビホルダーもいっしょ。こいつは可奈の火炎弾で真っ黒コゲ(無論怪物だから不死身である。攻撃耐久力は弱いようだけど)。今のところ完全に、完全なる気絶の夢の中。ド真ん中の巨眼も、周囲に広がる百以上の触手の先にある目玉も、すべて×印状態となっていた。

 

 それこそ漫画みたいにして。

 

 なお、ここで本当ならば一般市民の義務として、人里に下りたら地元の衛兵隊に、事件の顛末を届けなければならないはず。だがあいにく可奈には、そのような殊勝極まる遵法{じゅんぽう}精神など、まったく無かった。だからビホルダーたちは第三者の誰かに発見されるまで、野獣や怪物が徘徊をする山中に、全員が縛られたままでの置き去り状態と相成ったしだい。

 

 一応ビホルダーだって、怪物の一員なのだが。

 

 そんな風で、山道の下り坂を急ぐ可奈。それと、けっきょくお終いまでカモシカ姿で通している美香。彼女はまるでなにかを訴えるかのようにして、可奈に翡翠色の瞳を向けていた。

 

 獣に変身中では人語がしゃべれないのは、もう何度も説明済み。それでも幼なじみが言いたい話の内容は、可奈にも充分以上に伝わってきた。

 

「あいつら、あのまんまでええずらか……って言いたいんだに♐ いいずらよ♡ だいたい、あたしと美香さひどい目に遭わせて、ビホルダーなんかの貢ぎモンにしようってした連中だにぃ☠ さけぇ同情の余地なしずらぁ✌」

 

 可奈は一気にまくし立てた。もともと可奈は、自分に危害を与えた――または与えようとした連中を、絶対に許さない性分があった。そんな可奈に手を出した馬鹿者こそ(もっとも初対面の者が、可奈のそんな性格など、知るはずもないか。これも一種の悪運であろう)、ある意味不幸だったのかもしれない。

 

 ふたり(可奈と美香)は現在、今度こそ東海道を西へ向かっている途中。故郷の長野県を北の方角に感じながら、今のところ本拠としている九州へ帰る道中にあった。

 

 予定外であり、また予想外でもある、もうひとりも連れて。


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