『剣遊記番外編V』 第四章 邪教壊滅作戦。 (11) 「……これって、どう言うことずら? 仮にも怪物が、こんなこんねえだろ?」
「…………☁」
可奈の、やや横目気味な問いかけに、ビホルダーは答えようともしなかった。だが、それでもう充分でもあった。
「やっぱ……ってより、あたしにも予想外だったずらけど、おめさって、この世にあんねんまくおるビホルダーの中でも、一番成績最低の部類ずらか? そう言えば言葉づかいも、なんか子供っぺえとこさあるだにぃ☞☞」
「ダ、黙レ……コレ以上言ウタラボコスゾ……♨」
ビホルダーともあろう者が、なぜかあせり丸出し気味。そんな怪物の動揺っぷりに構わず、可奈は続けた。あっと言う間に、自分のほうが優位に立ったような気分になったつもりで。
「さけぇ実力さ無{ね}えぶん、人さ騙して、そん神さに居座ろうなんて発想ができるんだにぃ☠ あたしら人って、おんしみてえな化け物さ本能的に怖がっとうとこさあるから、ちっとべぇおめさが強そうなところさ見せれば、たちまち『へへぇ〜!』なんてひざまずいちゃうもんずらねぇ✌✄」
「それだったら、オレたちは騙されとったって言うんかよぉ!」
可奈の指摘で驚いた者は、当のビホルダーよりもむしろ、横で控えていた司祭のほうだった。
「オ、オレたちゃいきなりビホルダーのあんたが出てきたからよう、そん教えに従ってただけじゃんかよぉ! それなのにようもきょうまで、ようも嘘を吐いてくれたじゃんかよぉ!」
この言葉に可奈は噛みついた。
「えーーい! おめってえずらぁ! おんしらも人や動物の首さ斬って、生け贄の儀式さやってたくせにぃ!」
「ちょっと待て!」
今度は司祭のほうが、可奈に異議申し立てを行なった。
「動物はどうせあとで食っちまうから、生け贄の真似ごとで首斬ったけどよう、人間まで斬った覚えはねえ! きょうのライカンスロープだって、おまえがあんまり生意気だから、脅かしで首を斬る真似をしただけじゃんかぁ!」
「はあ?」
可奈の口が、ここでまたOの字となった。
「だ、だけど、あたしは見ただにぃ! 動物の頭がい骨に混じって、人間のも確かにあったずらよ!」
「そ、それは……☁」
今度は司祭が口ごもる番となった。いったいどこで頭がい骨を見たんかよぉ――のツッコミもできないほど、彼の動揺は大きいようだ(リスでいるときの可奈が見たとは、夢にも思わないだろう)。だがそれでもぶつぶつと、言い訳だけは、しっかりとしてくれた。
「生け贄の真似ごとで動物の首を斬ったあと、なんかおもしろうなって動物のシャレコウベ集めしてるうちに、なんか人間のまで欲しくなっちまって、近くの墓場から頭がい骨だけ持ってきただけじゃん☠ 頭がい骨コレクターとして、究極の逸品が欲しくなるのは当たり前じゃんかよぉ☀」
「それがあの頭がい骨なんけ?」
可奈は今になって、あのとき人間だけに胴体の骨が無く、頭だけだった理由を理解した。おまけに墓場から司祭が頭がい骨を盗み出すという、それこそ世にも気色の悪い光景を思い浮かべ、なんだか吐き気まで感じてきた。
しかし、吐き気はなんとか我慢したものの、次に湧き上がった衝動は、あまりにも当然ながら、怒りの感情であった。
「えーーい! やぶせってぇ! 要するにコレクターが最後の禁断の一線さ超えたってことずらぁ! ついでにまぎらわしいとこに放置さするでねえーーっ!」
「うぎゃあああああああっ!」
言い訳ばかりをほざく司祭をボワンッと吹っ飛ばした魔術は、当然可奈の放った火炎弾であった。
「あんねんまくこんねんまく言い訳さしたところで、ビホルダーの威光さ借りて悪さやらかしたんはおんしらのほうずらぁ! おまけに気色悪い趣味まで始めてからにぃ! さけぇ今さらやぶせってえこと言うんじゃねえだにぃ!」
可奈の怒りの雄叫びを、もはや司祭は耳に入れていなかった。なぜなら彼は、可奈の火炎弾で黒コゲとなり、吹っ飛ばされた先の野原で、ゴロリと寝転がっていたからだ。 (C)2014 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |