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『剣遊記番外編V』

第四章 邪教壊滅作戦。

     (10)

 とにかくこれにて、可奈、美香、珠緒VSビホルダーの構図。見た目だけなら三対一である。しかしこの構成でも、可奈組のほうは、圧倒的に不利だった。なぜならビホルダーは、その触手の先の眼球ひとつひとつに特殊な魔力が備わっていると、可奈は昔習ったことがあるからだ。従って、たとえ自分を囲む敵が多人数であったとしても、ビホルダーは全方位の相手と、互角以上の実力で戦えた。ましてや現在、魔術の飛び道具を有している者は、ここでは可奈ひとり。あとのふたり(美香と珠緒)は、魔術自体と日頃無縁なライカンスロープなのだ。

 

「ええだに☞ ふたりとも……絶対あいつの眼さ見ちゃだちかんだに♐」

 

 可奈は自分の背後にいる美香と珠緒に、そっとささやいた。そんな三人の怖気っぷりを、全身の眼(百目神の別名があるのだから、やはり目は百個なのだろう)で見たようだ。

 

「アハハハハッ♡ コリャオモシロイジャン☀ 人間トらいかんすろーぷガ、コノボクニ逆ラウナンテネェ♪ デキルモンナラヤッテミナ、ッテナモンジャンカヨー♪♪」

 

 ビホルダーは、今度ははっきりと、声に出して笑っていた。その巨大すぎる単眼と、かたちに変化の無い口では、ビホルダーの表情など、いまいち読み取りようもなかった。だけども口調は、確かにそれを示していた。

 

(これって……マジに勝負さぶっちゃって、逃げたほうがええずらねぇ……☠)

 

 可奈はこの場で一番手っ取り早い対処法(敵前大逆走――要するにトンズラ)を、美香と珠緒に目配せで伝えようと考えた。けれど、その行動よりも先に、当のビホルダーの、少しおかしな様子にも気がついた。

 

(あらぁ? なんか変ずらぁ?)

 

 それは最悪の魔力を有するはずの怪物が、先ほどからそれこそ口だけ。一向に仕掛けてこないのだ。

 

 可奈は思い切って言ってやった。怪物相手に大胆にも。

 

「どうしたずらぁ? おんしも怪物だったら、さっさと攻撃してもええんでないかぁ?」

 

「ウ、ウルサイ! ボッコスゾォ!」

 

 なぜかビホルダーが、ムキになって返してきた。

 

「ボ、ボクノ真ノ力ヲ舐メナイデヨォーーッ! コレヲ見ルダンベェーーッ!」

 

 それから『一応』の但し書き付きになるが、ようやく攻撃の火蓋を仕掛けてきた。なぜ『一応』なのかと説明すれば、その攻撃とやらが無数にあると思われる触手の内の一本から、線香花火のような火球が、シュボッと一発出ただけであったから。

 

「はあ?」

 

 可奈は開いた口がふさがらない思いとなった。


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