『剣遊記U』 第一章 帰ってくる男。 (4) 剣で峰打ちをされ、悶絶している者。腕の骨をポキンと折られて、地べたでもがいている者。または両手を上げて降参している者、などなど。
「孝治ぃーーっ! こっちは大方片付いたばぁーーい! そっちはどげんやぁ!」
気持ちがスカッとするほどの大暴れをしたためであろうか、今やすっかりご機嫌の声を上げた戦士は、髪が長めである女性のほうだった。さらに男のほうはと言えば、降伏している山賊をひとりひとり、縄で縛っている真っ最中となっていた。
「大丈夫ど? ひとりで動けますけ? なばんごつ、すまんですねぇ☹ ボクの姐{あね}さんはあげんとおり、少々ひちゃかちゃなお人ですけん……☁☂☃」
しかもたった今まで戦っていた山賊相手に、丁寧そうな気配りで謝ってもいた。
あれのどこが少々なんね――と、当の山賊たちから、文句を叩かれながらで。
それはまあ置いといて、娘は女戦士に返事を戻した。
「ああ、こっちも終わったけね☆ 清美たちが子分ば引き受けてくれたおかげやけ、事が簡単に済んだっちゃね♡」
「ああ、そうけ☹」
このとき、何気ない顔付きで応じる女戦士ではあった。だが、彼女の瞳には明らかに、なんらかの嫉妬の色が浮かんでいた。
「な、なんね?」
その異様な雰囲気に気づいた娘は、背中に大きな冷や汗😅を感じた。すぐに女戦士のほうから、これに応えてくれた。娘は特に、なにも言ってはいないのだけど。
「なんでんなかたい! それよかしっかし、ほんなこつ、孝治はそん格好がよう似合うったいねぇ! 元男んくせによぉ☠」
「うわっち!」
女戦士から言われたくない指摘を受けた娘――その正体は戦士である鞘ヶ谷孝治{さやがたに こうじ}は、思わず苦虫を二百万匹分噛み潰す思いとなった。
詳細はのちほど説明するとして――そうなのである。娘は孝治の変装した、現在の姿なのだ。
「そ、そげんこつ……この場で言わんでもよかろーも!」
孝治は瞬く間に、自分の顔面の赤色化を感じた。もちろんその付近の内輪の話など、今回の山賊退治には、なんの関係もないことである。 (C)2011 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |