『剣遊記U』 第二章 帰ってきた男。 (7) 曰く――荒生田と裕志の冒険の目的は、日本🗾最北端の地まで行っての宝探し。
途中、日本最高峰である富士山の魔の樹海で、道に迷いかけた話。東北地方の湖で、ムササビ型の怪獣と出くわした話。北海道の大雪山で、雪男{イエティ}と戦った話――などなど。
「凄かぁ〜〜っ♡ そげなことまでやったとねぇ♡ それで宝は見つかったと?」
「ははは……☻☺」
子供のように純粋感激した様子でいる由香に、裕志はもう一回、苦笑い気分で答えてやった。
「それが笑っちゃうと☻ そげな苦労までして、北海道最北端の宗谷{そうや}岬まで行ったとに、そこには古墳もなんもなかったんよねぇ✄ けっきょく、頼りにしちょった地図が、インチキやったってことやね✃ それで先輩ったら、このまんまじゃ腹ん虫が収まらんっちゅうて、帰る途中で寄った奈良の明日香で遺跡ば掘って(注 現実世界せは、勝手に掘ったら捕まります⚠☠)、古い貨幣ば袋いっぱいにして持って帰ったと☂」
今度は由香が、くすっと吹き出す番になった。
「ほんと、あん人らしかっちゃねぇ♥ それはそうと明日香っち言えば、裏庭ば掘っても遺跡が出るような所っち聞いとうとやけど、持って帰った貨幣は、いったいどげんしたと?」
これに裕志も、二回目のくすっ――三回目の苦笑いで答えてあげた。
「それは今、店の金庫に預けとうけ♡ あした店長に鑑定してもらうことになっとうけね♡」
「店長が高{た}こう買{こ}うてくれたらええとやけどねぇ♡」
由香が期待満載で、瞳を光らせた。
ここ未来亭では、店長の黒崎が自ら鑑定士となって、持ち込まれる宝物品などの売買も行なっていた。しかも彼の鑑定眼は的確であり、孝治などもときどき遺跡から骨とう品などを掘り出しては(二度目の注 やかり現実世界では、勝手に掘ったら捕まります⚠☠)黒崎に調べてもらい、これを絶好の小遣い稼ぎにしていた。
これら宝の話で盛り上がったところで、由香が自分も座っているベッドの上に置かれてある、奇妙なかたちをした弦楽器に瞳を移した。
当然これが、次の話題のタネとなる。
「これってなんか、珍しい楽器やねぇ♡ いったいなんなの? 琵琶とは違うし、もちろん竪琴でもないようやし……♋」
「ああ、これやね☞」
弦楽器について尋ねられたとたんだった。裕志はなぜだか、冒険の話のときよりも、溌剌とした顔になっていた。
「これは先輩と東京に寄ったとき、そこの秋葉原ってとこの道具屋で見つけたと☟ その名も『ギター🎸』って言う、西洋から直輸入された弦楽器やて♡ ひと目見て気に入ったもんやけ、すぐに路銀の半分ばはたいて買っちゃったと♡ すっごうええ音色で、旅の間、ずっと練習しよったけね♡」
「素敵っ♡ お願い♡ ここで弾いてみて♡」
由香の瞳も、このときキラキラ✨と煌{きら}めいていた。とにかく、せがまれると断れない性格を自覚している裕志は、由香のために奇妙な弦楽器――ギターの演奏を再開させた。
「いいっちゃよ……いや、ぜひとも聴いてほしかっちゃけね☆」
すぐに青年魔術師の指が奏でる西洋弦楽器の音色が、せまい部屋の中で反響。由香の耳に心地よく響き渡ってきた。
それから得意の曲を鳴らしながら、裕志が吟遊詩人の弾き語りのようにして、静かな口調で由香に語りかける。
「……ぼくは……ほんとは魔術師よか吟遊詩人になりたかったんだよなぁ♡ 好きな歌ば歌いながら、日本中のいろんな場所ば旅して周れるもんやから✈ ただ、ぼくの生まれた家が魔術の名門って言われとうとこやったけ魔術師になってしもうたとやけど、夢はまだまだ捨てたつもりはなかっちゃけね♡」
「大丈夫♡ 夢は必ず叶うもんやけ♡ やきー今もこげんして、大事なギターば弾いて歌ば歌いようやない♡」
由香はいつの間にか、裕志のすぐ左横まで、静かに体を寄せていた。
お互いの温もりを、肌と肌で感じ合えるほどの間近まで。
振り向けば、互いの視線が交錯し合うふたり。くちびる同士が自然に近づいていく。
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