『剣遊記U』 第二章 帰ってきた男。 (4) この一方で、涼子から裕志よりは頼りがいがあるとの評価を受けた孝治はこのとき、そろりそろりと足音を立てないよう、騒ぎの場から離れていった。
ところが抜き足差し足忍び足中である孝治の右肩を、うしろからガシッとつかんで、無理矢理的に引き止める者があり。
「ちょい待ちんしゃい!」
「うわっち!」
(ほ、ほんなこつ遅かったぁ……この鞘ヶ谷孝治、一生の不覚っちゃあ……☠)
激しく鼓動を打つ心臓を右手で押さえつつ、孝治は恐る恐る、うしろへと振り返った。
背後から孝治の右肩をつかんでいる男。そいつの髪型はリーゼントで、黒いサングラス😎をかけた伊達{だて}野郎。孝治と同じ軽装鎧の戦士風。ニヤリと開く口の中で、前歯がキラリと光っていた。
「や、やあ……荒生田{あろうだ}先輩……おひさしぶり……です……☠」
かなり引きつりながらも、孝治は精いっぱいの精神力を駆使。月並みな挨拶を、そいつに返してやった。だが、サングラス男の反応は、異常とも言えるほどの大袈裟ぷり。とにかく自分の全身をフルに使って、訳のわからない喜び方を表現してくれた。
「ゆおーーっし! 孝治かよぉ、おめえ☀ 風の噂じゃあとっくに聞いとったっちゃけど、ほんなこつ見事な女っぷりやねえかよぉ♡ えらいっ✌ よくぞ男ば辞めてくれた✄ オレんためになあ✌ 先輩として非っっ常にうれしかぞぉ✌ なんつったかてすっげえ可愛いばぁーーい♡ おめえはもともと極度の女顔やったんやし、もともと充分以上に素質があったっちゃけねぇーーっ♡♡ うん、とにかく良かった♡♥♡ ゆおーーっし! オレの彼女にしちゃるけねぇーーっ♐♐」
この間孝治は、口のパクパクが、これまた精いっぱいの有様。ひと言も言葉を返せない状態になっていた。
とにかくサングラス😎男――荒生田先輩がひとりでベラベラベラベラと吼えまくるので、これに口を差しはさむ、わずかな隙も見いだせないのだ。 (C)2011 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |