『剣遊記 番外編W』 第一章 豪快! 女傑伝説。 (4) 今や瓦礫の山ばかりと化している、元賭博場があったビル内の廃墟。
戦闘も一応終結。煙と埃が店内に充満している中だった。
「ありゃま? もう済んじゃったとですか、清美さん?」
開いたまま――それも半壊状態となっている入り口のドアからのっそりと、清美と同じような軽装鎧の小男が顔を出す。
「ああ、済んだばい、トク♐」
清美は小男に向け、おもしろくもなさそうに返事を戻した。それも皮肉の要素を、たっぷりと含めて。
「あたいが言うたとおりせからしかけん、仕事が済むまでぬしは出てこんでもええっち言うたばってんねぇ……ほんなこつ傍観者ば決め込むたぁ、けっこうおちゃっかな身分ばいねぇ☠ まっ、邪魔んなってやおいかんようなるよきゃマシばってん☢」
「そぎゃん腹かかんかって、よかやなかですかぁ……☁」
これにてたちまち、半ベソの顔となるトクとやら。ちなみに身長も清美より頭ひとつ分低いので、哀れみを誘うその姿に、ますますの拍車がかかる格好。
それもそのはず、本城清美の属する種族は人間であるが、トク――こと徳力良孝{とくりき よしたか}は、小柄な種族であるドワーフ{大地の妖精族}出身。従って、身長に大きな差があっても、これは当然とも言えるのだ。
ついでながらドワーフは、人間よりもずっと長命な種族である。だから徳力は清美よりも実は年齢がずっと上なのだが、なぜか絶対に頭のほうは上がらなかった。そのため同じ戦士を職業としていながら、清美の助手――兼子分と、さらに彼女のお守り役までも仰せつかっていた。
「ま、まあ……ボクんこつ、この際どぎゃんでもよかですけどぉ……☂」
いつも清美からいじめられている自分の境遇など、もはや慣れの境地であった(ここまでくると、精神Mの疑いあり)。徳力は簡単な気持ちの入れ替え方ひとつで、元の本題へと立ち返った。
こうでなくては、清美の御用人などは勤まらない。
「……そのぉ、なんちゅうか、いつもんながらやり過ぎやと思うとばってんねぇ……店ん中ばもう、たいぎゃボロボロのひちゃかちゃですけん☢」
徳力としてはむしろ、女戦士に超暴れられた犯罪者たちのほうを、とても気の毒に思っていた。だけど清美のほうはと言えば、いまだ戦いの興奮冷めやらぬ――の模様であった。
「せからしかねぇ! いつもかつもあくしゃうつごつおめいてばっかしやけぇ♨ それよかここ、別府の衛兵隊の連中ば、まだ来{こ}んとやぁ!」
今も猛りきっている気分のまま、全身から戦闘の余韻を、清美は大いに発散しまくっていた。
そのような最中になってからようやくだった。地元別府市の衛兵隊が、おっとり刀で事件現場に駆けつけてきた。 (C)2015 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved. |