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『剣遊記 番外編W』

第一章  豪快! 女傑伝説。

     (3)

「ひ、ひえええええええっ! ほ、本城清美っちゃあーーっ!」

 

 疑路のような、博打で悪銭を得る小悪党ですら、その名をすでに脳内知識の中へと入れていた。

 

「し、知っとうにぃ! おっとろしいほど凶暴で、われが暴れ狂った跡やと、ペンペン草の一本も残らんっち言われとっちほどのおぞい獰猛びこ(大分弁で『娘』)やろうがぁ!」

 

「そぎゃん、おっこいつきなすなぁーーっ!」

 

 これほどひどい解説をされて、それでも気持ちが平穏でいられる者など、たぶんこの世にひとりも存在しないであろう。ましてや言われた者が、問題の清美であったのならば、なおのこと。猛火に火薬とガソリンを、まとめて投げ込むような事態は明らか。

 

「ぬしゃーーっ、まっごあくしゃうつぅ! こんあたいば正真正銘の化けモン呼ばわりしてからにぃ! そぎゃんおめくんやったら望みどおり、がまだす(熊本弁で『頑張る』)ほど凶暴にやっちゃるけんねぇーーっ!」

 

 長い黒髪を天井に向けて逆立て、もはや剣を振るのも面倒とばかり、その場に放り投げる有様。それから自慢にしている脚力で、一気に大ジャンプ!

 

「ぬしなんざ、冥土の世界で反省してこんねぇーーっ!」

 

 渾身の力を込めた飛び蹴りが、見事疑路の顔面真正面にドガチイイイイイイイイイインと炸裂!

 

「あひいいいいいいいいいいっっ!」

 

 ブオオオオオッと鼻血の飛行機雲を大噴出しながら、疑路が再び後方の壁まで吹っ飛ばされた。それも比較的厚い石造りであるはずなのに、簡単に、さらに紙のようにドッカアアアンと、人体でそれを突き破るほどの超破壊的大威力!

 

 この大惨事のあとに残った者は、自分を侮辱した輩を徹底的に痛めつけ、清々とした気分で床にペッとツバを吐く、清美の勇姿のみであった。

 

「けっ! よか気持ちったい、ざまあみい☆!」


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