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『剣遊記 番外編W』

第一章  豪快! 女傑伝説。

     (1)

 暮れなずむ夕刻間近の歓楽街。

 

 ここは全国的に温泉地として名高い、大分県は別府{べっぷ}市の中心街。そこの裏通りの、これまた裏の裏の裏の道。とある三階建てのビルの一角よりズッガッガッガアアアアアアアアアアーーンッッッ――と、突如轟き渡る、大爆発と大響音!

 

「な、なんやぁ! おっとろしゅう音よるなぁ!」

 

「見るやにぃ! あのビルの窓ばぁ!」

 

「火ぃ噴き出しようってぇ!」

 

 裏通りでもそれなりに、観光客が足を伸ばすもの。その道行く通行人たちが一斉にその場で足を停め、全員が全員、そろって同じビルを仰ぎ見た。それと言うのも、眼前にそびえる外見上は目立たない様式(剥き出しの石造り)であるビルの窓という窓すべてから、初めは閃光が走り抜けたかと思ったほどだった。そこからすぐに、派手な爆煙と炎が噴出した。

 

 だが事態は、どうも通常の火災とは違っていた。火や煙と同時に、ビル内でなにかが壊される音や、男たちの悲鳴が聞こえるのだ。

 

それでもビルの一階正面出入り口から大勢の人たちが、まさに着の身着のまま。我先にと、外の通りへ飛び出してきた。

 

それなのに火傷やケガを負っている者は少ないようだ。ただみんな、ひたすらにこの災難から逃れたいとばかり、各人その目を血走らせていた。

 

「おいっ! いったいどげえことがありよんかえ!?」

 

 この状況を変に思った通行人Aが、逃げ出した男をひとりつかまえて訊くのだが、そいつは訳のわからないうわ言をのたまうばかりだった。

 

「か、怪物やぁ! あれは絶対怪物的猛女なんやぁ!」

 

 それから一目散に、現場から猛ダッシュで逃走。この恐るべき災害現場から一刻も早く遠ざかろうと、今はそれのみが頭を支配している様子がありありと言えた。

 

「……いったいこん中でほんなこてぇ、なんがありよんのかえ……?」

 

 先ほど逃げた男に訊こうとしていた質問を、今度は自分の口の中で反復しながらであった。通行人Aが目前にそびえる三階建てのビルを、改めて下から眺めみた。内部で起こっているらしい破壊音がさらに大きな衝撃となって、ビル全体を大きく振動させていた。

 

「……なんかようわからんちゃけどぉ、こげえなったら巻き添え喰わんうちに、早よこっから離れたほうがよさそうやにぃ☠」

 

 このようなまともな発想に通行人Aが行き着くまで、大した時間を必要としないほどだった。なにしろ巨大なド迫力が、さらに眼前にてド派手な展開をおっ始めたのであるからして。


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