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『剣遊記U』

第六章 城門の魔獣。

     (9)

「おっ💡 なんかいいアイデアでも出たとか?」

 

「いいアイデアっちゅうほどでもなかっちゃけどぉ……☁」

 

 あせり丸出しである秀正には、一応曖昧{あいまい}に答えておく。それよりも孝治は、ずっと自分のうしろで立っていた友美に振り返り、両手を合わせて頭を下げた。

 

「こんとおり! 恥ずかしながら、おれの失敗で角燈{ランタン}ば忘れちまったっちゃねぇ☠ やけん代わりに、友美の『光』の魔術で灯りば創ってくれんね☀」

 

「けっきょく、他力本願やね☠」

 

 秀正の陰口は聞かない振り。だけど友美は孝治の哀願を前にして、明らかに困惑気味の表情を浮かべていた。

 

「わたしが灯りば創るとぉ?」

 

 しかし孝治も必死である。

 

「頼む! お願い!」

 

 もはや恥もプライドもなし。思いっきり頭をペコペコと下げるのみ。ここまでやれば、友美も嫌とは言えんやろうねぇ――と、少々のズルを自覚しながら――もあるけど。

 

 この一方で、友美がまだ『いいっちゃよ♡』と言ってもいないうちから、秀正が荒生田たちの所に駆け出した。

 

「まあ、よかばい☻ ついでやけん、裕志にも同じ魔術ば使うよう言うてくるけ✍」

 

 でもって孝治は、いまだ友美に哀願中。

 

「すまん! 恩に生きるけ! やけんきょうだけでも頼むばい!」

 

 それでも友美は、なぜかとても消極的な態度を見せていた。

 

「そりゃわたしかて、『光』の魔術くらい、やってもよかっちゃけどぉ……でもねぇ……☁」

 

「な、なんか問題でもあると?」

 

 さすがに変を感じて、孝治は尋ねてみた。すると友美は、今度は申し訳ないというような顔になって、孝治に答えてくれた。

 

「……実は『光』の魔術って、けっこう体力ば使うんよねぇ☂ やけんわたしん場合、小一時間ぐらいが限度かも☃」

 

「体力ぅ? あっ……そう言えばそうやった☂☢」

 

 友美に言われて、孝治も思い出した。今まで孝治と友美はペアでの仕事が多く、友美に『光』の魔術を使ってもらった回数は、決して少ないとは言えなかった。

 

だがそのときは、大抵は短時間の術使用で済ませていたはずだったのだ。

 

「ごめん、友美、肝心なこつ忘れとったっちゃね☁」

 

 孝治はがっくり😞と両肩を落とした気分(_||○)になり、深いため息を吐いた。しかしこの理由で友美に文句を言うのは、明らかにお門違いというものであろう。そもそも失敗のタネを撒いたうえ、その尻拭{ぬぐ}い友美に無理強いをさせようとしたのは、他ならぬ自分自身であるのだから。

 

 だけど秀正や荒生田先輩たちに、いったいどんな風に言い訳をすればよいものやら。

 

「こげんなったらあとはもう、裕志の魔術の実力に期待するしかなかっちゃろうねぇ☁」

 

 それこそワラをもつかむ思いになって、孝治は裕志に最後の望みを託した。しかしそれも、半分あきらめたほうがいいかもしれない。なにしろ裕志も、体力の貧困ぶりには友美以上の定評があり過ぎなものだから。

 

 そんなネガティブ思考に陥っている孝治の左耳に、涼子がこっそりと話しかけてきた。

 

『暗い所ば照らすとやったら、このあたしにもできるけね☀』

 

「うわっち? 涼子が?」

 

 これに半信半疑――というよりは四信六疑くらいの心境で、孝治は涼子に顔を向けた。すると涼子は、丸出しの胸を大きく張り出して答えてくれた。

 

『そうっちゃよ♡♡』

 

 このとき、涼子よかおれんほうがおっぱいが大きかばい――などとは、孝治は決して口にはしなかった。

 

 それはともかく、涼子が得意そうな顔して言った。胸の件でどのように思われているかなど、知らぬが仏{ほとけ}で(おっと、本当の意味で『仏』だった♋)。

 

『もしかして忘れとうかもしれんけど、あたしは幽霊なんやけね♡☻』

 

「忘れようがなかろうも♨」

 

 孝治は脊髄反射的に突っ込んだ。もちろん涼子には通じず。

 

『やけん、幽霊にはまだまだ、未開発の特殊能力があるっちゃよ☀ やけんあたしがそれば使って、灯りの代わりばしちゃるけね♡』

 

「どうもよう、話が見えんとやけどぉ……☁」

 

 孝治の四信六疑は、三信七疑へと変わった。ここで涼子が右の瞳でウインク。

 

『うふっ♡ くわしいことは、あとで見て驚いてや♡』

 

(おれに可愛い娘{こ}ぶって、どげんすっとや♨)

 

 そんな軽い頭痛を感じた孝治の所へ、いきなり秀正、荒生田、裕志、到津の四人が血相を変え、城の方向から全力疾走してきた。

 

「孝治ぃーーっ! 大変ばぁーーい!」

 

「じょ、冗談やなかばぁーーい!」

 

「わひぃーーっ!」

 

「おぞいことあるぅーーっ!」

 

 孝治はとっさに反射神経で叫んだ。

 

「な、なんかあったとや!」


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