前のページへ     トップに戻る     次のページへ


『剣遊記U』

第六章 城門の魔獣。

     (10)

「な、なんかもクソもあるけぇ! あれば見てみい!」

 

 荒い息を吐く秀正が、震えている右手で後方の城門を指差した。

 

「四人で門ば開こうっちしたら、中にあげなんがおったとたい!」

 

「うわっち? ……うわっちぃーーっ!」

 

 秀正に言われて城門に顔を向けた孝治は、瞬時に絶叫を張り上げた。次の瞬間にはその門が、内側から勢いよく、派手にドカーンと吹き飛ばされ、バラバラの破片となって周辺に散らばった。

 

 さらにバキバキバキッ、ドドオオオオオオオオオンンと、城門の外壁そのものがボロボロと崩れだした。

 

「う、うわっちぃーーっ! あ、あれってぇーーっ!」

 

 

 絶叫に続いて、孝治はさらに声を張り上げた。そのとたん、耳をふさぎたくなるような吼え声が、周辺一帯に響き渡った。

 

グボガゴオオオオオオオン!

 

おまけにドドォーンと、城門が内部から完全に破壊されて粉塵が広がり、その煙の中から人間の体形で二本足の怪物が、その恐ろしい姿を城内からぬっと露出させたのだ。

 

「うわっちぃーーっ! オーガー{食人鬼}ばぁーーいっ!」

 

 三度目となる孝治の叫び。登場した人型怪物の身長たるや、並みの人間の三人分。全身を赤黒い剛毛と、岩のような分厚い皮膚で装甲。両手の爪は刃物のごとく鋭く伸び、上下のアゴから生えているもまた、まさに頑丈そのもの。

 

 右手には丸太並みの棍棒を握り締め、桁{けた}外れの破壊力を有する殺戮者{さつりくしゃ}。さらに人肉を最も好んで食する怪物――その名もオーガー!

 

「な、なしてあげなんが出るとやぁ!」

 

「知るけえ!」

 

 驚きと仰天で瞳を大きく開く思いの孝治に、荒生田がこちらに走ってきながらで怒鳴りつけた。

 

「城の門ば開けようっちしよったら、いきなり中から出よったとばい! ずっと城ん中に隠れとったとしか思えん!」

 

「城ん中ぁ?」

 

 続いて孝治は、やはりこちらに逃げてくる到津に顔を向けた。

 

「まさかあんた、こんことば知っとって!」

 

 しかし到津は、頭を大きくプルプルと横振り。まさに一生懸命な感じで、孝治に向かって叫んだ。

 

「そが〜にことない! 信じてほしいあるね! ワタシ、お城にオーガー棲んでたなんて、全然知らなかたあるよ!」

 

「それじゃあ、城のどっかに別の出入り口があって、そっから入って棲んどったとやろっか?」

 

「そげなむずかしいこっちゃ、あとにせんけぇーーっ!」

 

 状況をわきまえずに考え込む裕志を、荒生田が今度はうしろから、右手でポカリとしばき倒した。そのついでか、さらに大きな声も張り上げた。

 

「こげんなったら、やつは一頭だけったぁーーい! 逃げるんはやめて、総掛かりで決着ばつけるったぁーーい!」

 

「先輩の言うとおりっちゃね!」

 

 孝治も戦う腹を決め、腰のベルトの鞘から、愛用の中型剣を引き抜いた。


前のページへ     トップに戻る     次のページへ


(C)2011 Tetsuo Matsumoto, All Rights Reserved.

 

inserted by FC2 system