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『剣遊記U』

第六章 城門の魔獣。

     (7)

「おおーーっ! あれがそうけぇ!」

 

 それなりに汗だく状態になっている荒生田が、大きく感嘆の声を上げた。しかし反対に、後輩の裕志は体力を使い果たす寸前にあるらしい。見事な青色吐息の顔となっていた。

 

 このふたりはともかくとして、一行の前に目もくらむような断崖絶壁の峡谷を背景とした(しかも崖っぷちの超間際♋)、石造りの古城がそびえていた。それはまさしく、孝治の想像していたモノと、ほとんど変わらない古い建築様式の城🏰であった。

 

「……まっ、こんなもんけ♠」

 

 ただし、望楼や物見櫓らしき建造物もあるにはあるのだが、それらはどのように贔屓目{ひいきめ}に見ても、ただの格好付けのよう。孝治の思う感じでは、全部がまるで付け足しみたいに、安上がりな造りだった。実際遠くから見ても、緑の蔦{つた}に覆われた城の所々に、ボロボロのひびが入っているのが明らかだし。

 

 だからもし、これが仮に戦争になっても、籠城戦{ろうじょうせん}なんかにはまったく向かないと思えるほど(城を包囲されたら弓矢で攻められるだけで、一発で陥落しそう☠)、全体が安っぽい造りとなっていた。

 

 それとも建造目的は、なにか別の方面にあるのかもしれない。

 

 孝治は、そんな放置をされて何十年も経つであろうか。外壁が蔦で覆われている古城を前にして、しみじみとした思いで、友美と涼子を相手につぶやいた。

 

「……な、なんちゅうか、すっごい出来過ぎみたいな感じがせんね? 今まで誰もここまで来れんかったってのが、なんか嘘みたいな気がするっちゃねぇ☁ まっ、これも到津さんの道案内がしっかりしとったけここまで来れたっち、無理に言えそうでもあるっちゃけどねぇ……☁」

 

 涼子がこれに応じてくれた。

 

『まあ、良かやない☀ あたし、あん人ばずっと見張っとたけど、別にあたしたちば騙す様子なんて、ちっともなかったばい……今んところは、やけどね☆』

 

 続いて友美も、孝治と涼子にささやいた。

 

「わたし、思うとやけど、到津さんっち、なんかよほど、わたしたちに信頼されんといけん事情があるとやないやろっか♐ ここまで献身的に他人のために尽くす人なんち、正直言うて、わたし初めて見るとやけ♣」

 

「信頼されんといけん事情ねぇ……☁」

 

 孝治は考えた。友美が言うとおり、確かに到津には、なにかの秘密があると思って間違いはないやろうねぇ――と。

 

しかし、それがいったいなんなのか? 今の段階では、まったくわからんばい――としか考えようがなかった。


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