『剣遊記U』 第六章 城門の魔獣。 (6) 荒生田がなかば強引に言い切り、また秀正は自信喪失気味なのだが、道のりそのものは、古地図はそれほどインチキとは言えなかった。
だが如何{いかん}せん、百年も前のシロモノである。
三本松の影だと推定される地点から西の方角に目を向ければ、その先には記載どおりに、ふたつの山が見えた。
よく考えてみれば、松はなんの関係もないような気もするが、要するに地図を書いた者の趣味なのであろう。今となっては記述者不明であるけど。
とにかくそこまではけっこう。問題はその山の麓{ふもと}まで進むと、地図に記されているはずの水車小屋が松の木と同様、影もかたちも見当たらないことにあった。
到津がこの原因について、簡単に説明をしてくれた。
「ここにあった水車小屋、三十年前くらいに前を流れる川が氾濫{はんらん}して、全部流されてしまったわ☂ ても大丈夫♡ ワタシの記憶では、お城こちらの方向ね♐」
「三十年も昔んこつ、よう知っとうっちゃねぇ✐」
「はい、そうあるね♡ ワタシ記憶力、抜群自信あるのこと✌」
「記憶の問題とは違うように思うっちゃけどぉ……☃」
「さあ、早く行くよろし☆」
孝治の疑問には明確に答えず、到津はさっさと、近くを流れる小川の上流方向へと道を進んだ。
「いくら約束したっちゅうたって、今んとこは自分からは一切、答える気はないんやねぇ☢⛔」
けっきょく到津の先導に従いつつ、孝治はブツブツとつぶやくしかなかった。実際に進路となる山道も、あちこちで山崩れや崖崩れの跡だらけなのだ。こんな場合頼りになる獣道でさえ、樹木に覆われて見えないモノがほとんどとなっていた。
「こりゃ確かに、あんたみたいな案内人がおらにゃ、誰も目的地まで行けんっちもんばいねぇ⛐」
疑問から早くも一転。孝治も思わずベタ褒めするほど、到津の先導は的確だった。
(我ながら都合のええときだけ、べんちゃらば言うばいねぇ♪☻)
孝治は内心で苦笑した。今ではこれも定番。
やがて、気が遠くなるぐらいの道のりを踏破したであろうか。到津が道の前方を右手で指差し、大きな声を上げた。
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